世界を覆う「カネ余り」や起業ブームが後押しし、あまたのスタートアップが生まれている。起業家の「目標」の1つでもあるIPO=新規株式公開。社会的信用度が高まるだけでなく、大きな資金獲得の手段となり、成長へのエンジンを手に入れることができる。より高い場所を目指すため、大事なプロセスであることは言うまでもないだろう。

 だが、上場によって企業は加速度的な成長を遂げているのだろうか。

まずは、このデータを見てもらいたい。

上場後の成長の谷 共同研究レポートより
上場後の成長の谷 共同研究レポートより
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 これは、当社が一橋大学・鈴木健嗣教授と行った共同研究のデータだ。上場した企業の、上場時と3年後の成長を比べたグラフなのだが、年平均にすると、中央値ですら成長率は10%にも達していない。大規模な資金を獲得した企業の成長としては、非常に寂しい結果ではないだろうか。下位25%に至ってみれば、上場後にマイナス成長に陥っている。4社に1社が、上場後3年でマイナス成長になっているという悲惨な状況だ。右図の「営業利益」の3年間での成長率はもっと厳しい。平均値こそ2.3%であるが、これは産業構造を変えるような規模で成長した、トップ企業も含んだ数字である。中央値はなんとマイナス0.6%だ。

 この状況を皮肉めかして、人は「上場ゴール(IPOゴール)」と呼ぶ。「日本は世界で一番上場しやすい」「小粒上場なんてさせるからいけないんだ」とからかう人も多い。

 だが、待ってほしい。世界で一番上場しやすいこと、小粒でも上場できることは本当に悪なのだろうか。一定規模まで成長した上でないと上場が難しい海外と違い、早いタイミングでも上場という選択肢があることは、日本のスタートアップにとって成長戦略の選択肢が増えるという意味で大きなメリットではないだろうか。上場しやすいのは悪ではなく、むしろ善。悪いのはその上場を成長につなげられていない点にある。

 私自身もスタートアップをIPOした際、数々の試練に直面した。そこには、経験者にしか分からない「成長の壁」が存在する。この壁の存在を知り、乗り越えていくことが日本全体の活性化につながると信じている。

 上場後の企業の加減速の分水嶺はどこにあるのか。本連載では、上場ベンチャーの資金調達や成長戦略の実行支援のエキスパートとして見てきた経験や成長企業にインタビューした結果に基づき解説していく。

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