2021年12月4日、トヨタ自動車はバッテリーEV(電気自動車)戦略に関する説明会は事前の予想を超える大規模な新車発表会となった。16車種のバッテリーEVを発表するとともに、30年までに30車種を乗用・商用においてグローバルに展開すると宣言したのだ。
だがトヨタの脱ガソリン車の動きは、バッテリーEV以外でも進んでいる。この発表会でも、豊田章男社長は「1990年代、バッテリーEVと同時に開発が始まったのが、水素で走る燃料電池自動車でした。(中略)その後、バスや大型トラックへも展開を図るなど、燃料電池車も進化を続けております」と燃料電池を使った自動車についても自負を示した。トヨタは14年に世界初の量産型燃料電池車(FCEV)「MIRAI(ミライ)」を発売している。MIRAIは乗用車だが、公共交通のバスでも燃料電池車は利用され、トラックでの実証実験も進行中だ。

また燃料電池を使ったプロジェクトは車だけではない。22年6月には、トヨタと子会社であるウーブン・プラネット・ホールディングス(東京・中央)が共同でポータブル水素カートリッジのプロトタイプを開発し発表している。持ち運べるポータブル燃料として利用拡大を見込んでいるという。トヨタにとっては、バッテリーEV市場の拡大に対応しつつも、その可能性を見込んで燃料電池車を生かす未来も描いているのだろう。
欧州は、脱ガソリン車として燃料電池車ではなくバッテリーEVが主流となっている。独BMWは、13年11月に量産バッテリーEVとなった「i3」を発売し、独メルセデス・ベンツは「EQC」を皮切りに、バッテリーEVのシリーズを展開している。バッテリーEV「e-ゴルフ」を発売している独フォルクスワーゲン(VW)は、22年7月にVWグループの電池セル事業を担当する新会社「PowerCo(パワーコー)」を設立すると発表した。量産効果などにより、電池のコストを最大50%削減するとしている。
脱炭素に向けて急速に進む欧州のバッテリーEVシフトだが、脱ガソリン車に他の選択肢はないのか。その選択肢の一つとして注目されているのが燃料電池車だ。バッテリーEVと燃料電池車の二者択一ではなく、長距離の貨物輸送やバスなどは燃料電池車、日常使いの車はバッテリーEVなど、適材適所で補完し合うことは可能なはずだ。
それだけに、燃料電池車について知ることは無駄ではない。今回は日経ビジネスが25年前に掲載した記事を紹介する。トヨタが燃料電池にかけた思いと開発の経緯を取り上げている。当時の想定のように技術開発や市場への展開が順調に進んだわけではない。だが、21年末のバッテリーEVの発表会で、あえて豊田社長が燃料電池車について触れたのも事実だ。その思いの背景にあるものを振り返ってみよう。以下の記事は日経ビジネス1997年1月6日号の特集「新世紀技術の幕開け トヨタは脱エンジン」を再掲載したものです。登場する人物の肩書、企業・組織名、資本・提携関係、表現などは原則として掲載時のものです
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