日本の優れた技術者や研究者がより待遇のよい研究先や職場を目指し、日本を出ていってしまう。この問題は昔から研究者の間では話題になっていた。だが、世間で大きく注目されたのは2001年に起きたいわゆる「青色LED(発光ダイオード)訴訟」によるところが大きい。

 この訴訟は、日亜化学工業を相手取って、元社員の中村修二米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授(当時、以下中村氏)が自らが関わった特許に対する対価を求めて起こした。欧米では企業業績に影響を与えたり、世界的なインパクトを与えたりした研究に携わった研究者には、社員であってもインセンティブや報酬を与えるのが通例だ。中村氏が起こした訴訟は、日本企業においても研究者は正当な対価を得られるべきだとするもので、日本企業の姿勢に一石を投じることになった。

 04年1月、東京地方裁判所は中村氏の主張を認め、日亜化学工業に対して200億円を払うよう命じた。その後、05年1月、日亜化学の控訴を受けた東京高等裁判所において、約8億4000万円を中村に支払うことで和解が成立した。中村氏が手にした金額は当初の判決から大きく目減りしたことになる。

 この裁判後、社員研究者に対する処遇について議論が盛んになり、待遇を改善する企業も生まれている。19年には、NTTがスター研究者に年1億円の報酬を出すと表明、NECは新卒の研究職を対象に最大で年収1000万円を超える給与支給を発表するなど、20年前では考えられなかったアグレッシブな制度が導入されつつある。

 ただ、「GAFAM」と呼ばれる米大手IT企業と比較すると日本企業の給与レベルは低い。中村氏のようなスター研究者を引き抜いたり、引き留めたりすることも難しいだろう。また、2010年代になって、日本の技術者が中国や韓国の企業に引き抜かれ、話題を集めた。欧米だけが頭脳流出先ではなくなっている。企業内での話ではないが、21年にはよりよい研究環境を求めて研究チームごと中国の大学に移籍する事例も起きている。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 今回は、過去の記事から中村氏が東京地裁で勝訴した後にどのようなことを考えていたのかを振り返る。結果として、東京地裁の判決で示された200億円を手にすることはできず、その考えは実現しなかったが、中村氏の目指したものは、研究者への支援という意味で、今も求められているように思える。20年近く前、研究者として時代の先取りをしたかのような、中村氏の考えを紹介する。

以下の記事は日経ビジネス2004年6月28日号の時流超流「青色レーザーの報酬も求める 青色LEDで係争中の中村教授が明かす次の一手」を再掲載したものです。登場する人物の肩書、企業・組織名、資本・提携関係、表現などは原則として掲載時のものです

青色レーザーの報酬も求める

 青色LED(発光ダイオード)と同様に、青色レーザーの発明についても、相応の対価を求める――。

 青色LED発明の対価を巡り、日亜化学工業(徳島県阿南市、小川英治社長)と裁判で争っている米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授が、こうした考えを本誌の取材で明らかにした。中村氏が青色LED以外の請求方針について語ったのは初めて。

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