新型コロナウイルス禍の中、人との接触を避けてものを購入する機会は増えた。ECサイトやフリマアプリの利用頻度が高まることによって物流需要が上昇し、それが宅配業界にとって大きな負担となっている。国土交通省の「宅配便等取扱個数の推移」によると、20年前の2002年度には27億5000万個だった宅配便の取扱個数は、最新のデータである20年度では前年度比11.9%増の48億4000万個と倍近くに増えている。
宅配各社は対策に追われているが、人手不足の中、ドライバーは一朝一夕には増やせない。そのため、改善策の一つとして再配達数の削減が目指されている。これを受け、宅配ロッカーの設置、コンビニ受け取り、置き配、戸建て用宅配ボックスの設置などが進んでいる。またドローン配送や配送ロボットなどの実証実験も試みられている。
だが国土交通省が実施している宅配便のサンプル調査では、22年4月の再配達数は前年比11.7%増となっており、減少傾向にはない。21年6月に制定された国土交通省の「総合物流施策大綱」では宅配便の再配達率を、20年度の10%程度から25年度には7.5%程度と2.5ポイントほど減少させるとしているが、道半ばといった印象だ。

宅配便の配達に関しては約20年前、ヤマト運輸が新たな仕組みを導入した。今回は、そのヤマト運輸の取り組みについての記事を紹介したい。不達となった荷物を配送所に戻さずに、できる限り当日中に配達するようドライバーに携帯電話を持たせたのだ。再配達伝票にドライバーの携帯電話番号を記載し、顧客はドライバーと直接やりとりして再配達を依頼できる。その後、このシステムを他社も導入し、今では当たり前になっているサービスだ。
ただし、当時の狙いは顧客満足度の向上とコスト削減にあり、今、課題となっている、再配達を減らし、労働負荷や環境への悪影響を小さくすることが目的ではなかった。確かにユーザーからすれば、細かく配達希望時間を指定でき、再配達の利便性は高まった。だが、1998年から始まった「時間帯お届けサービス」も含め、細かく配達時間を指定されることがドライバーの負担を高めたことも否定できない。
また、記事の中でも触れているが、無線通信から携帯電話にシステムを切り替えたことで、新たなリスクを抱えることになった。2022年7月2日に起きたKDDIの通信障害によりドライバーへの連絡ができなくなったことは記憶に新しい。
課題の解決のために導入した仕組みが、新たな問題を引き起こす。現在の再配達問題への対応にもそんなリスクは潜んでいないのか、考えてみる必要があるかもしれない。そのためにも、20年前のヤマト運輸の取り組みや問題意識がどのようなものだったのか、現状と照らし合わせてお読みいただきたい。
ヤマト運輸が宅急便運転手に携帯電話支給
ヤマト運輸が宅急便のセールスドライバー全員に携帯電話を持たせ、顧客と直接会話できる仕組みを整えた。
これまで、不在などのために荷物が受け取れなかった宅急便の顧客は、「不在連絡票」に記された営業所かコールセンターに電話をかけて再配達を依頼し、営業所は業務用無線を使ってドライバーに指示を与えていた。だがこれでは、顧客の要望に迅速に応えることが難しくなってきたことから、一部地域で実験的に使ってきた携帯電話を10月1日に全面導入した。
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