ほとんどのコースは無価値?

 開設に踏み切ったのは、ゴルフ場予約・評価サイトのイー・ゴルフの月間閲覧回数が600万回に達し、日本のほとんどのゴルフ場のコース評価を集める体制が整ったためだ。

 仲介業者はもちろん売買を希望する個人、あるいはゴルフ場も直接参加しての相対取引をネット上で行う。多数の参加者によって価格形成の透明度を担保する。ウェブサイトに利用者が書き込むサービスやコース管理の水準の評価を使えば、「経済合理性のあるゴルフ会員権の価格が明らかになる」(山内社長)と意気込む。

 この取引市場開設はただでさえ相場回復の見えないゴルフ会員権取引業界や、ゴルフ場の経営そのものにまでも、様々な衝撃や波紋を引き起こしそうだ。

 まず、深刻なのは会員権業者だ。ネット取引によって証券業界に起きたのと同じ、仲介手数料の激減というショックが起きる。ゴルフ場や個人の直接参加が多くなれば、売値と買値の価格差を利用してのさや抜きは難しくなるうえ、仲介料収入も得られなくなる。

 10年前は1000万円以上が当たり前だった会員権価格は、今では平均価格が200万円を切り、経営不振のコースなどでは指し値1万円の投げ売りさえ出る始末だ。こうした業者間取引の情報を内輪に閉じ込め何とか手数料収入を確保していたのが、「イー・ゴルフによって公開の場にさらされれば、ゴルフ会員権業者のほとんどはつぶれるしかない」(都内の会員権業者)という悲鳴も上がっている。

 ゴルフ場にとっても影響は大きい。米国ではパブリックコースが67%を占め、高い会員権が必要な、いわば社交の場として使われるコースはわずか。これに対して、日本のゴルフ場に占めるパブリックコースの割合は10%しかない。では、残り90%の会員制ゴルフ場は社交場に値する水準なのか。オープンな価格形成によって、会員になってまでプレーする価値のあるゴルフ場とそうでないゴルフ場の選別が進むのは必至だ。

 イー・ゴルフの山内社長は、「経済合理性に照らせばこれまでのゴルフ会員権はほとんど無価値になる。だがより多くの人にゴルフを楽しんでもらうためには、それも仕方ない。現に、当社の開設する市場に参加を予定する取引業者も多い」と話す。

 23日には関東圏の約400の取引業者を集めて、新市場の説明会が開かれる。既にある業者組合のクローズドシステムを捨てて、どのぐらいの会員権業者が公開市場に乗り換えるのかは分からないが、ゴルフ場に対する価値観が所有から使用へ変わる契機になるのは間違いない。

(川上 慎市郎)

まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。