産地偽装がなくならない。2022年2月には、外国産のアサリが熊本産として20年にわたり販売されていた産地偽装が表面化した。外国産のアサリを日本国内の干潟などで短期間仮置きしただけで熊本産として販売していた。消費者は、外国産を国産アサリと信じて購入していたこととなる。

 また22年1月には、中国産ウナギを国産と偽って販売していたとして、奈良県のウナギ専門の食品販売会社「うな源」(奈良県大和高田市)が、近畿農政局から是正指示を受けている。

 産地偽装が報道された影響は大きく、同社は22年4月に破産手続きの開始が決定している。帝国データバンク奈良支店によると、関連会社「M’S EEL」(同上)を含めた負債総額は合わせて3億3200万円になるという。うな源が出店していたデパートや、ふるさと納税の返礼品として利用していた大和高田市は対応に追われることとなるなど、その影響は小さくなかった。

 一度失ってしまった信頼を回復するには時間がかかる。偽装が明るみに出れば致命的なダメージを受けるにもかかわらず、目先の利益のため偽装をなぜ続けるのか。事案ごとにその理由や背景は異なるだろう。20年前、伊藤忠商事100%子会社の伊藤忠フレッシュ(当時)は、うな源と同じくウナギの産地偽装に手を染めた。同社はなぜ不正を行ったのか。その背景を当時の記事から振り返ってみる。

 以下の記事は日経ビジネス2002年10月21日号の時流潮流「伊藤忠子会社が産地偽装」を再掲載したものです。登場する人物の肩書、企業・組織名、資本・提携関係、表現などは原則として掲載時のものです

 「伊藤忠グループの従業員は約4万人。機会あるごとに、企業倫理の大切さを説いてきたが、それでも私の考えがグループの隅々には届いていなかったようだ」。先頃発覚した伊藤忠商事の100%子会社、伊藤忠フレッシュ(東京都港区)が、台湾産のウナギを国産と偽って販売した事件を受け、伊藤忠商事の丹羽宇一郎社長は、こう語る。

 確かに従業員との対話集会や、グループ会社の社長が集まる会議などを通じて、丹羽社長はコンプライアンス(法令順守)の重要さを説いてきた。メディアを通じても、企業倫理や食品行政の在り方について発言を繰り返してきた。

 にもかかわらず、グループ会社では、消費者を欺くような不正が行われていた。「私の発言を雑誌で読んだこともなかったのか。たった4000万円のために、こんな行為に走るとは」。丹羽社長はこう心情を吐露する。今回のケースでは台湾産を国産と偽ることで、総額約4000万円の売り上げ増になったと見られている。

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