当連載「温故知新 いま読み直したいあの日経ビジネス」では、日経ビジネスの莫大な過去記事から一編をピックアップして紹介している。今回は2002年のソフトバンクの記事を取り上げる。

 上場企業がベンチャー投資のためのファンドを設立・組成する流れが広まりつつある。CVC(Corporate Venture Capital)として自社事業とのシナジーを目指す動きだ。ファンドの設立の目的は、自社で新規事業の芽が育たない、ファンドで高収益を見込む、競合他社が参入したので始めたなど、それぞれ背景はさまざまだ。

 CVCの広がりは、経済産業省管轄の「オープンイノベーション促進税制」によるところが大きい。また、収益を目的としたファンド組成では、自社への再投資では成長見込みが立たないことや、自社がカバーする市場規模が小さくなっており、自社の事業領域とは別のところでリターンを得たいといった思いも見え隠れする。だが、運用ノウハウが無いまま安易に参入すると、大やけどを負う可能性もある。

 今回は「ネット株バブル」の崩壊後、2002年当時のソフトバンクのファンドを分析した記事を紹介する。当時の分析や推測がどこまで的を射ていたかはさておき、この記事を読めば、安易にファンドを設立したり、ファンドに投資したりできるほど甘い世界ではないことが分かる。

 とはいえ、ソフトバンクのファンドは当時の厳しい局面を経て、その後も拡大し、運用額で10兆円規模の巨大なファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以下SVF)」として存在している。

 ただ、20年のソフトバンクグループ(SBG)の決算では、起業家向けにコワーキングスペースを提供する米シェアオフィス大手ウィーワーク(WeWork)の経営悪化で約5000億円もの損失を出している。また、21年3月期は純利益で4兆9879億円を記録するも、22年5月に発表された決算では一転、1兆7080億円の赤字となっている。

 ベンチャー投資が一筋縄ではいかない世界であることがうかがえる。それだけにSVFの運用結果に対する評価も人により判断が分かれる。とはいえ、SVFのポートフォリオ群には、次のユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業)が眠っているとみられているのも事実だ。

 そうした成長をもたらしたのは、今回紹介する記事にあるように、ITバブル崩壊時に投資で厳しい局面に立たされた痛い経験、そしてそれでもマーケットに挑戦し続けた結果、現在のSVFにつながったとも言えるだろうか。20年前のソフトバンクのファンドを取り上げたときの状況と、SBGの現況を照らし合わせて、皆さんは何を感じとられるだろうか。

以下の記事は日経ビジネス2002年2月11日号の特集『ソフトバンク 宴の後始末』に掲載した『ばらまけど、戻らず 内部資料が物語る投資事業の実情』を再掲載したものです。登場する人物の肩書、企業・組織名、資本・提携関係、表現などは原則として掲載時のものです。

ばらまけど、戻らず

 ここに本誌が独自に入手した門外不出の資料がある。

 ソフトバンク・インベストメントが運用する「ソフトバンク・インターネットテクノロジー・ファンド1号」と「同2号」の投資先企業一覧表である。2000年3、4月にそれぞれ運用を始めた両ファンドの規模は、設立当初で合計約1300億円。ベンチャーファンドとしては、異例の大きさを誇る。

 ソフトバンク・インベストメントが運用する合計10本のファンドの資産規模は約2200億円(2001年9月末時点)。上記2つのファンドは、その6割を占める旗艦ファンドだ。主な投資先は、国内のインターネット関連企業である。これまではファンドがどの銘柄に投資したかが分からず、運用状況を分析することすらできなかったが、その全容が初めて明らかになった。

 一覧表を眺めてみると、よくこれだけの数があったものだと感心するほど、ネット企業、ドットコム企業が並ぶ。その数ざっと250。例えばエブリデイ・ドット・コムは、ネット上の宅配スーパー。元マッキンゼー・ジャパン会長で、ソフトバンクの社外取締役を務めた大前研一氏が社長だ。不思議なことに、バイオベンチャーのエフェクター細胞研究所、福岡~壱岐の定期航空路線の再開を模索する壱岐国際航空といったインターネットとは関係のない変わりダネ企業も交じる。

 破綻したためか、評価損を計上した銘柄が4つある。そして、見れば見るほど、ネット株バブルの宴の後といった印象が強くなる。

 一覧表にあるゴーイングコンサーン。電話をかけると、「休業中」とのテープが流れる。そこで新宿御苑に近い本社を訪ねてみた。新宿通りに面したビルの8階にオフィスがある。その階に上がってみると、辺りは真っ暗で、無人の事務所は、ドアに鍵がかかって入れない。とても事業が順調に進んでいるような形跡はない。

 今回の特集取材で、ソフトバンク・インベストメントとその親会社、ソフトバンク・ファイナンスは、北尾吉孝社長へのインタビューのほか、本誌が入手した投資先一覧などの資料の確認を含めたすべての事実確認を拒否した。

 ゴーイングコンサーンについては、2001年1月17日付の日本経済新聞が「人材研修各社、CFO養成、相次ぎ講座」という記事を掲載したことがある。

 「ソフトバンク系でベンチャー向け情報サービスを手がけるゴーイングコンサーンは、20日に財務や経営、IR(投資家向け広報)の実践的な戦略講座を開講する。(略)優秀な成績を修めれば、ソフトバンクグループのベンチャー企業にCFOとして紹介する」

 社名のゴーイングコンサーンとは、企業が永続的に事業を行う存在という意味だ。企業財務の最高責任者であるCFOの養成を請け負い、つぶれないことを社名に掲げた企業が頓挫したのだとしたら、何という皮肉だろう。

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