動画で紹介した商品が次々ヒットし、注目される“TikTok売れ”現象。日経トレンディが選ぶ「2021年ヒット商品ベスト30」のトップにも輝いた。本シリーズは、TikTokを活用して消費や流通の新たな形に挑む企業や個人にフォーカスした著書『TikTokショート動画革命』(日経BP)の一部を抜粋、再編集してお届けする。

 シリーズ3回目は、1980年に創業した三重県の「鳥羽ビューホテル花真珠」だ。2020年からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、宿泊施設はいまだ苦境に立たされている。そんな逆風が吹き付ける中で、鳥羽ビューホテル花真珠はTikTokを活用して集客アップにつなげた。21年2月に、公式アカウントをTikTokに開設。普段は真面目に働く社員たちのダンス動画などが話題となり、来館客を後押しした。旅行予約サイトの評点が地域No.1となる効果も表れ、売り上げの増加にも大きく貢献しているという。

三重県鳥羽市に建つ眺めが自慢の温泉旅館は、コロナ禍でもTikTokの活用で集客に成功。アットホームな接客で人気を集めている
三重県鳥羽市に建つ眺めが自慢の温泉旅館は、コロナ禍でもTikTokの活用で集客に成功。アットホームな接客で人気を集めている

 40年の歴史を数える老舗の旅館が、なぜTikTokを活用しようと決断するに至ったのか。TikTok動画にも出演する、「鳥羽ビューホテル花真珠」の3代目女将・迫間優子氏は、その理由を「不安からだった」と振り返る。

 「コロナの感染拡大により、20年12月27日にGo Toトラベルキャンペーンがストップすると、みるみる予約がキャンセルになりました。最初の緊急事態宣言が出た20年の5~6月に2カ月間休館し、ようやくお客さんも戻ってきたばかりでしたから、スタッフもこの先どうなるのだろうという不安を感じていたと思います。21年2月になって『そろそろ何かしなければ』と思いましたが、コロナ禍で積極的に集客をしていいのかも分からない。そこで、フロントのスタッフに、旅館の名前を少しでも知ってもらうくらいのつもりで、以前から気になっていたTikTokを始めてみるのはどうかと話したんです」(迫間氏)

 すでにツイッターやインスタグラムなどの公式アカウントを運用し、SNSでの発信に積極的だった同旅館。YouTubeへ動画を投稿したこともあったが、制作にかかる労力に対し、再生回数が見合わないと感じていたという。その点、短尺のTikTokなら動画制作の手間も軽減できる。ただ、コアのユーザーが若い世代であるTikTokと、老舗の旅館との相性はまったくの未知数。旅館のブランドイメージを落とすことなく、認知度をアップさせるという難題に取り組むよう命ぜられたのは、フロントスタッフの是松優作氏だった。

 「TikTokは若い子が楽しんでいる動画を上げるイメージが強かったので、女将から最初に言われたときは正直驚きました(笑)。ただ、じっとしていられない状況でもあり、後輩たちを誘って、そのときにTikTokで流行していた通称『ルナルナダンス』に挑戦してみたんです」(是松氏)

次ページ 動画がバズった理由は〝ギャップ〟の面白さ