分析を学ぶ事例

 実際にSWOT分析した例が図2になります。これはある地方銀行(以下、地銀)を分析したものです。この地銀は、「地銀冬の時代」といわれる中でも、県内シェアトップでまだ余裕があるように見えます。しかしながら、弱みと脅威のセルに入っている項目のマイナスのインパクトが強く、何かしらのアクションが求められていることが分かります。

 例えばデジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れであれば、社長(頭取)が自らリーダーシップを発揮してデジタル領域にたけたコンサルタントを雇い、トップダウンで改革を進める必要があるかもしれません。あるいは政府による新型コロナウイルス禍に伴う支援が終わった後に懸念される、融資先倒産の増加に備え、今のうちから融資先と密に連携をとり、コスト削減や売り上げ増のための支援が必要かもしれません。

 なお、実際のSWOT分析では、1つのセルにもっと多くの情報を盛り込むことも多いのですが、ここでは便宜上、それぞれのセルに特に重要な要素を3つ書き出しています。1つのセルに盛り込む情報量に決まった上限はありませんが、あまり多すぎると何が重要なポイントなのかが分かりづらくなってしまうため、枝葉の情報はカットするか、特に重要と思われる項目については赤線でハイライトするなど、分かりやすさも心がけたいものです。

 ただし、「枝葉の情報」と思っていたものが、後の経営に大きな影響を与えることは少なくないので、安易な思い込みには注意しましょう。例えば、2008年ごろに世界の携帯電話(フィーチャーフォン)市場で40%近いシェアを持ち、トップを独走していたフィンランドの通信機器大手ノキアの経営陣。彼らは、米アップルの新商品であるiPhoneの脅威を過小評価していました。その後、スマートフォンが一気に主役となり、それに乗り遅れたノキアはわずか数年で赤字に転落し、携帯電話事業の売却に至ったのです。変化の速いテクノロジー系の外部環境要因などは、他の要因以上に注意が必要です。

 SWOT分析を実務で活用する際には、ホワイトボードなどにどんどん書き込むというやり方をすることが多いですが、各人がポストイットに情報を書き込み、それを適切なセルに貼ることもあります。

 また、SWOT分析では、ある要素を弱みではなく強み、脅威ではなく機会と見なせないかと前向きに考えることも必要です。例えば「企業規模が小さい」ことは戦う上で一見不利であり、弱みに思えますが、「スピーディーに動ける」「無駄な経営資源が少ない」「高い自由度で、望む経営資源を今後集めることも可能」と考えると、強みと見なすこともできます。

 あるいは新規参入を考えている際に、通常は「規制が強く、参入障壁が高い」ことが脅威に思えますが、「内部のプレーヤーは安心しきっていて、ビジネスの革新をおろそかにしている」「業界のプレーヤーは内部のしがらみにとらわれている」「代替サービスなどで規制さえうまく回避できれば、一気に顧客を獲得するチャンスがある」などと考えれば、これは機会になります。近年さまざまな動画サービスが地上波のテレビ局を脅かしていることなどが、この例に当てはまるかもしれません。

 過度な楽観はもちろん禁物ですが、新しい事業機会を探る場合などは、世の中の動向を自社のビジネスチャンスにいかにつなげるかという前向きな発想こそが必要です。

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