まずはSとT

 まずはSTPそれぞれの要素について見ていきます。

 セグメンテーション(S)では市場を細かく切り分けます。経営資源は有限であるため、自分たちが最も効率的に成果を上げられるように市場を細分化するわけです。

 セグメンテーションの典型的な切り口としては、地理的変数(都市部/地方、国、都道府県など)、人口動態変数(性別、年齢、所得、家族構成など)、心理的変数(保守的/先進的、環境意識が高い/低いなど)、行動変数(ヘビーユーザーか否か)などがあります。

 例えば、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE、東京・港)の家庭用ゲーム機「PlayStation」の主たる購入者は若年層ですが、中年層も少なくありません。人口動態変数も重要ではあるものの、どちらかというと「ゲーム上級者でゲーム機に思い入れが強い」「ゲームを楽しむヘビーユーザー」といった心理的変数、行動変数の軸のほうが肝心です。これは、B to C(消費者向け)ビジネスの例です。

 一方、B to B(企業向け)ビジネスでは、「大企業/中小企業」「業種」などが重要な軸となってきます。例えば、クラウド会計ソフトの「freee(フリー)」は、個人事業主や中小企業を狙うことで他のソフトとの差別化を図りました。

 セグメンテーションでは、一歩踏み込んでユニークな切り口がないかを考えることも重要です。例えば、クラフトビール大手、ヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)の製品「水曜日のネコ」は、ビジネスウーマンが仕事後の午後9時から午後12時の間に飲むシーンを想定してセグメンテーションをしています。次に述べるターゲティングの観点からはニッチ(隙間)市場になるものの、その中で大きな支持を得ているのです。

 さて、市場を切り分けたら、次にターゲティング(T)へと移ります。さまざまな市場セグメント(区分)のうち、実際にどの市場をメインターゲットとしていくかを決める重要な営みです。そこで役に立つのが6Rのフレームワークです。

6Rのフレームワーク
6Rのフレームワーク

 6つのRのうち、特に重要なのは最初の3つです。残りの3つは補助的なものと考えてください。

 最初の2つ、「規模」と「成長性」は市場の魅力度に直結します。一般論としては、規模が大きく成長性が高い市場は魅力的です。ただし、この2つが有望だと、多くの競合が引き寄せられ、俗にいうレッドオーシャン(競争の激しい市場)になりがちです。

 そこで、「規模」「成長性」と3つ目の「競合状況」をてんびんに掛けた上で、どの市場を選択するかを決定するのが一般的です。競争が激しくても魅力的な市場を選ぶのか、それともやや魅力に乏しい市場であっても、そこで圧勝することを重視するのか。絶対的な正解はありません。事前に社内でしっかり意見を擦り合わせることが必要です。

次ページ ポジショニングの捉え方