「顧客=カスタマー」という言葉は、ビジネスシーンにおいて使用頻度の高い単語の1つ。にもかかわらず、顧客に関する議論がかみ合わないことがある。こうした事態を避ける上で有効なのが、カスタマージャーニーだ。これを使って、顧客が何を求めているか、自社の強みとは何かを再定義してみよう。

 顧客という言葉は抽象度が高く、共通の顧客像を持ちながら議論しているように見えて、実は認識がずれていることが少なくありません。

 顧客について共通の認識を持つ方法としては、ペルソナを設定し、顧客の属性や意識、行動特性を描くのが一般的です。また、「バリュープロポジションキャンバス」を用いて、顧客が解決したい課題(Customer Jobs)、何をしたら喜ぶのか(Gains)、どんな不満があるか(Pains)を明らかにしていく方法もあります。

バリュープロポジションキャンバスは、自社の製品やサービスと顧客のニーズとのずれを解消するためのフレームワーク。顧客がどこに痛みやメリットを感じるかを書き出し、サービスがそれに対応しているかを確認する
バリュープロポジションキャンバスは、自社の製品やサービスと顧客のニーズとのずれを解消するためのフレームワーク。顧客がどこに痛みやメリットを感じるかを書き出し、サービスがそれに対応しているかを確認する

 上記のような方法に加えて、より「体験」にフォーカスした手法として、カスタマージャーニーマップがよく利用されます。

カスタマージャーニーとは

 カスタマージャーニーとは、顧客が自社の商品やサービスを購買するに至るまでの行動や体験全般のことをいいます。現代の顧客は、かつてとは比べものにならないほど、たくさんのタッチポイントから商品やサービスの情報を得ています。このような変化から、顧客の目線を起点としたマーケティングの考え方がこれまで以上に必要とされています。

 カスタマージャーニーマップは、顧客が商品を購入したり、サービスを利用したりする際にたどる経緯(=ジャーニー)を、複数のタッチポイントを視野に入れてマッピングする手法です。

 こうした考え方の原点は、赤字体質に陥っていたスカンジナビア航空をわずか1年で再建に導いたヤン・カールソンが提唱したMoT(Moments of Truth:真実の瞬間)、顧客が企業価値を判断する瞬間にあります。

 同社のよく知られたエピソードを紹介しましょう。

 航空券をホテルに忘れた顧客が、困った様子で空港のカウンターに相談に来ました。今からホテルに戻っていたら、予約した便には乗れそうにない。話を聞いた空港カウンターのスタッフは、すぐに自社リムジンを手配。ホテルまで顧客に代わってチケットを取りに行き、飛行機が飛び立つ前に、顧客にチケットを手渡したといいます。こうしたスタッフの迅速かつ臨機応変な対応に、顧客はとても感謝したそうです。

 このような対応ができたのは、日ごろから顧客が遭遇するだろうシーンについて解像度を高く描き、備えていたからでしょう。そうした地道な取り組みの積み重ねがカスタマージャーニーマップの精度を高めていくのです。

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