物価高が進む

 参院選投開票日の翌日、今の「物価高」の要因となる「円安」が一気に進んだ。1ドル137円台前半は、実に1998年9月以来、約24年ぶりのことだ。

 日銀の黒田東彦総裁の「必要があれば、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的な金融緩和措置を講じる」といった発言に加え、前の週に発表されたばかりの「6月の米国雇用統計」の内容が事前の予想を上回っていたことが、円を売って米ドルを買う動きに拍車をかけた。

 長らく続く「金融緩和」は、アベノミクスの3本の矢の第1の矢「大胆な金融政策」から本格化した。2013年の新語・流行語大賞にノミネートされたアベノミクスは、第40代アメリカ合衆国大統領であるロナルド・レーガンの経済政策「レーガノミクス」に由来する。

 第2の矢が「機動的な財政政策」で、第3の矢が「民間投資を喚起する成長戦略」だ。このアベノミクスは、第2次安倍政権下での政策だと思っている人も少なくないが、その後の菅義偉政権や現在の岸田政権においても、その路線はしっかりと引き継がれている。

 円安を要因とする物価高のせいで、今は「金融緩和」の良くない影響ばかりが強調されがちだが、輸出関連企業の割合が高く、外需に依存する日本ではメリットを受けている企業はまだまだ多い。

 年度初めの計画で、保守的な為替水準を置く企業が目立つ中、日々進む円安は、昨年度と同様に今年度の業績で過去最高益を見込む企業の数を増やし続けている。

 大事なことは、今の「円安」を表と裏のトータルで見ることだ。経済の世界には得をする人もいれば、損をする人もいる。メディアや講演会などで経済に関わる話をする際に、私が最も気を使うことだ。

 仮に日本の金利を引き上げた場合、引き上げ効果が円安による良くない影響を上回るのか? 引き上げ幅が限られる中、逆に悪影響を及ぼすことにはならないのか? 金利を引き上げることで、国内マーケットが混乱に陥ることはないのか? といった点だ。

 激動の為替市場の一方で、来年23年4月には黒田日銀総裁が任期満了を迎える。現時点での新総裁有力候補2人は、いずれも日銀執行部の人間だ。そうした立場上、今の金融政策の大きな転換は難しいことが予想される。

 その場合、それを見透かした投機筋が市場を突いてくることは必至だ。これまで、このような局面で大胆な人事を断行してきたのが安倍元総理だった。

 アベノミクスの第2の矢「機動的な財政」も、継続せざるを得ない状況だ。少子高齢化が進むこの国で、財政支出を大幅に削減することは景気の悪化にストレートにつながる。

 一般会計予算の約4分の3を占める「社会保障関係費」と「地方交付税交付金」、そして「国債費」は、いずれもこの国のマイナス分の穴埋めとして、今後も膨らみ続けることが前提となる。

 財務省によれば、国や地方自治体が将来、返済しなければならない「借金」である長期債務残高は、22年度末には1244兆円まで拡大する見込みという。これは、実にGDP(年間の国内総生産)の2倍以上。金利の引き上げが、この膨大な国債の利払い増加につながることも忘れてはならない。

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