最大で10連休にもなった今年のゴールデンウイーク。全国的に行動制限を伴わない春の大型連休は3年ぶりのこと。屋外も含め、日々アクティブに過ごした人も多いのではないだろうか。当たり前のように過ごしていた初夏を意識し始める独特な季節感も、今年はとても懐かしく、久しぶりに会う2人には、実に新鮮で貴重な時間となった。

 「上場企業の3月期決算発表、いよいよ本番ね。会社計画を上回ったり、過去最高益を更新したりする企業の数も多そうだわ」

 「何しろ、昨年度の東証上場企業の『想定為替レート』は1ドル105~110円程度。まさに『円安』効果が主役の決算ラッシュになりそうだ」

 「でも、海外からの輸入コストは高くつくわよね? 原油などのエネルギー、それから原材料も。企業経営もバランスが大事ということね」

 「この十数年で生産拠点を海外に移した企業も多いし、ドル建ての取引も増えた。『円安』メリットも昔ほどじゃないのは確かだ」

 「『円安』と言えば、私、最近『FX』を始めたの。スマホで簡単にできるし、今がチャンスかなって。最近は為替取引所の様子もニュースでよく見るし、親近感もあるわ」

 「ん? ……為替取引所。為替ブローカー(仲介取引業者)のこと?」

 円形のテーブルを囲む人たちが、身ぶり手ぶりを交えながら、電話やマイクに向かって為替注文の売り手と買い手をつなぐ、そんななじみの光景。為替市場が動意づけば、決まって映像や写真で目にする。しかし実際は、株式を取引する東京証券取引所のような専用の取引所は為替市場には存在しない。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

 そんな為替ブローカー経由の取引も今ではかなり少なくなった。主流は、パソコンから売りや買いの注文を出し、自動的に取引を成立させる仕組み。金融機関同士が直接取引を行うことも当たり前の時代。これらの総称が為替市場だ。そんな為替取引で、社会人になり立ての頃の私が最初に抱いた疑問。それは世界中で多くの人が取引をするにもかかわらず、例えば「円」と「ドル」との交換比率、つまり「為替レート」が一つにまとまることの不思議だった。

 資産運用の現場における私の最初の仕事は、国内大手信託銀行の外国債券・外国株式のファンドマネジャーだった。そこで目の当たりにした「裁定取引(異なる市場、同種の商品間の利益差や価格差を利用して利益を獲得する取引行為)」による為替レートの1本化。売りたい側は少しでも高く売りたいし、買いたい側は少しでも安く買いたい。両者のこの思いが、瞬間的に生じたはずの複数の「為替レート」を瞬時に一つにまとめていく。情報効率の高い為替市場では、一物一価がみるみる実現していく。あの時の感動は今でも鮮明に覚えている。

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