世界的な「良い豆は正しい価格で買おうという動き」

 現代珈琲以前は、大体この地方はこの価格といった平均的な値決めが存在していた。だが、現代においては、高品質なものであればコーヒーの絶対的な価値の方が優先される。購入したい豆の味わいが良ければ、平均価格と関係なく「この品質であれば、このくらいの価格がフェアだ」「この品質のコーヒーを持続的に生産していくためには正当な対価を払わなければならない」と上物に対する価格感覚が明確に存在するようになった。バイヤー目線での農園へのリスペクトや商品価値のすりあわせが、20年かけて実施できたこと。これはコーヒーかいわいにとって意義のある動きだったのではないだろうか。

 この評価は、驚くことに全世界規模ですりあわせができている。実際、カップ・オブ・エクセレンスで品評する際に、たとえば米国のバイヤーと欧州のバリスタ、そして日本の若い焙煎人。地域やキャリアが異なっていても大体、同じ点数をつけるところまで世界的な品質基準のすり合わせが進んだ。消費国ごとに好きなコーヒー豆の傾向やトレンドももちろんあるが、基本的にはその評価軸は大きくぶれないのだ。

中米のグアテマラは豆の品質が高いだけでなくマーケティング巧者でもあった(写真:Shutterstock)
中米のグアテマラは豆の品質が高いだけでなくマーケティング巧者でもあった(写真:Shutterstock)

 スペシャルティコーヒーの発展により、知られていなかった新たなコーヒー産地が注目を浴びることにもなった。

 一流産地としてあげられるグアテマラだが、その印象は今も変わらない。プロ野球で言えば読売ジャイアンツのような印象だろうか。グアテマラは味が良いだけでなくマーケティングも上手だった。まるで、V9時代の読売ジャイアンツのように、比類無き強さを誇っていた。

 しかし、ドラフト会議の導入により戦力が拮抗(きっこう)したプロ野球のように今では、グアテマラ以外の産地も力をつけている。中米コーヒーのAクラスには居るけれども、最高峰でないときもあるといった感じになったのだ。

変化を生んだスペシャルティコーヒー

 地域によっては、利益を得ることが難しかったコーヒー栽培。スペシャルティコーヒーの登場により、その状況は大きく変化した。しかしながら豆の生産は、そう簡単な道のりではない。農作物であるため、自然環境に左右されがちだ。高品質のものを毎年作ること自体も難易度が高い。バイヤーやコーヒー店はそれを理解し、良い豆は正当な価格で買うように変化していったのだ。

 ちなみに、ビジネス的な話でいえば生産者だけに無理を押しつけているのではなく、実はコーヒー店側もあまりもうけがない。生産者によっては、バイヤーやコーヒー店、その国のニーズやこだわりについて行こうと頑張る人もいる。

 その反面、やっぱりついていけない人も一定数いる。また、コーヒー栽培には標高などの地理的要素も大きく、一部の地域でしかスペシャルティコーヒーを作れない面もある。大量生産の農園や一般的な豆を作る農園が決して悪い農園というわけではないのだ。

 インスタントコーヒー全盛の時代から、現代珈琲に入り、より深くコーヒーを楽しむきっかけが生まれた。昔であれば、ちょっとマニアックな趣味だったコーヒーも生産者からバイヤー、コーヒー店など内的・外的な要因が変化することで、美味しいコーヒーを飲むことが一般的になったのだ。その背景には、農園側の良いコーヒーを生産する動きがあったのは間違いないだろう。

 次回から、実際の生産地についてリアルな農家を紹介する。コロナ前は、バイヤーとして年間150日近く産地を飛び回っていた。そんな、検索ではわからない、生産地視点での現代史を振り返っていく。

 ぜひ一杯のコーヒーと共にお楽しみいただきたい。まず初めに取り上げるのは、高品質コーヒーのイメージがなくダークホースな国の1つだった「ホンジュラス」だ。

この記事はシリーズ「丸山健太郎の「現代珈琲史」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。