前回はスターバックスの台頭と、カップ・オブ・エクセレンスという真剣勝負の品評会で良いコーヒー豆と出合える機会の創出など、1990年台以降に加速したコーヒーにまつわる環境変化についてひもといた。後編では、消費者視点で見てみると30年の現代珈琲の変化はより良い方向への成長の裏側で、農園側に起こった大きな事件について知ってもらいたい。

ブラックボックスを開けたダイレクトトレード

 コーヒーに限らない話ではあるが、何かを海外から輸入したとき、価格に対して生産者にどれだけ還元されているか見えづらい。そこにはブローカーと呼ばれる仲介人が間に入って取引を整理してくれるが、彼らの介在はプライスのブラックボックス化をもたらす。

 たとえ、こちらがしっかりとした値段をつけて良い豆を評価したとしても、実際はブローカーに大きく中抜きされているようなことがある。生産者から「丸山がコーヒーを買ってくれるのはうれしいんだけれども、この価格じゃちょっと厳しい」と直訴され、そんなにブローカーは手数料を抜いているのかと驚愕(きょうがく)したこともあった。

 その状況を変えたのがダイレクトトレードだ。この取り組みは、ブローカーに価格交渉の主導権をもたせないやり方だ。まず、コーヒー店やロースターと生産者の両者で先に取引価格を決めてしまう。そのあとで、輸出業者、輸入業者、ブローカーなどの中間業者の取り分も取り決める。中間業者がいけないというのではなく、すべてのプロセスの透明化を図るということだ。この仕組みができることで、生産者もフェアに取り分を受け取ることができるようになった。

 当たり前だが、ブローカーとしてはうれしくない仕組みだ。一部では嫌がらせもあった。だが、低い価格で買いたたかれる生産者と、豆の品質と価格のバランスに不満もつロースターの両者の不満や鬱屈がたまっており、それが爆発したことでダイレクトトレードが広まったのだ。それこそコーヒー店目線でみると、ブローカーは何か隠していると感じることが多かった。そもそも私たちには生産者とコミュニケーションが取りたい、良い豆であればしっかりと還元したいというもどかしい気持ちがあった。

 その気持ちと同じく生産者側も、実際のコーヒーの消費者とコミュニケーションを取りたいと思っていた。ブローカー主導の取引の弊害、限界に多くの人が気付いたのだ。

 このダイレクトトレードを実現したことで、良い豆を生産する人が良い評価を受ける形が実現できた。そして、カップ・オブ・エクセレンスなどで評価を受ける農園は、多くの人に知られ、収入が増えるという好循環が生まれた。

 収入が増えれば生活環境も変化する。子どもを学校に通わせることができ、車や家のローンが組める。そして、農園を拡大させるための再投資ができ、コーヒー生産によりこだわることができるのだ。

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