1000年という長い歴史を持つコーヒー。一説にはエチオピアのヤギ飼いが発見し修道院で広まったとも、王から追放されたイスラム教徒のシーク・オマールが発見したともいわれている。そんな宗教的起源で広まったコーヒーも、今や誰もが日常で楽しむ一般的な飲み物となった。

 30年前はコーヒー好きは「ちょっと難しい人たち」と思われていた。1990年代から大きく右肩上がりに増えたコーヒー消費。缶コーヒーやインスタントなどの手軽な形式だけでなく、消費者自らが豆選びから自宅でドリップを愉しむコーヒー文化が形成された。

 現代では、どうしてコーヒーとの向き合い方が変化したのだろうか? 『丸山健太郎の現代珈琲史』では、エピソードゼロとして偶然と必然によって形成された現代のコーヒー文化をひもといていこう。

(写真=的野弘路)
(写真=的野弘路)

コーヒー文化の分水嶺

 今では食事が終わった後、あるいは休日の午後などに車でコーヒーを飲みに行ったり、余暇をコーヒーに費やしたりするのが一般的になった。ときには、美味しいコーヒーを飲むことが旅の目的になることも。しかし、ひと昔前を振り返ると、多くの人にとって、コーヒーはわざわざ飲みに行くようなものではなかった。

 そんなコーヒーがどのようにして人気を得てきたのか。その大きな転換は「スターバックス」の登場だ。米シアトルのPike Placeにスターバックス1号店ができてから、野火のように世界へと広がり、現在では比類無きコーヒーショップとなった。

 昔の米国のコーヒーへのイメージはこんな感じだ。私の出身は神奈川だが、40年前ある米国発のファミリーレストランが近所にできた。クラスのお金持ちの子が早速レストランに行き、そこのコーヒーをリポートしてくれた。「コーヒーがタダなの。おかわり自由で! でも、薄くて味があまりしなかった…」と。スターバックス以前では、苦くて色がついていればコーヒー。「アメリカンコーヒー=薄いもの」といった程度の認識だった。

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