スペシャルティコーヒーの父・リカウルテさん

 近隣国の成功を目の当たりにしてようやく重い腰を上げたコロンビアは、2005年に初のCOEを開催。国際審査員としてCOEに参加した私は、そこでついに待望の「上物」のコロンビアコーヒーとの対面を果たすことになる。

 ふくらみや重さを伴った、キャラメルやミルクチョコレートのような独特のコクや甘み。「コロンビアっていいコーヒーだな」。テイスティングしながら私は思わず感慨にふけった。さすがにレベルこそ段違いだったが、かつて日本で味わったマイルドコーヒーの極地とも言えるあの味が、審査したすべての豆に共通して備わっていたのだ。

 実力伯仲の豆が出そろう中、頭一つ抜け出し、栄えある初代チャンピオンに輝いたのが今回紹介するロス・ノガレス農園だ。優勝ロットを丸山珈琲が落札して以来、現在に至るまで良好な関係が続いているパートナーであり、コロンビアコーヒーのよさを私に再認識させてくれた、ある意味では恩人とも言える生産者である。

ロス・ノガレス農園での収穫の様子
ロス・ノガレス農園での収穫の様子

 ロス・ノガレス農園があるのはコロンビア南部、ウィラ県のピッタリートという地域。ウィラ県は生産量・品質ともコロンビア国内でトップクラスの優良産地だが、中でも群を抜いているのがこのピッタリートだ。05年のCOEではピッタリートの農園が軒並み上位にランクインしたことから、「COE銀座」と勝手に名づけたりした。

 現在、若き3代目のオスカー・フェルナンド・エルナンデスさんを中心とした家族で運営されているロス・ノガレス農園。だが、私が付き合いを始めた当初に農園を率いていたのは彼の父親であるリカウルテ・エルナンデスさんだった。

 リカウルテさんは幼少期から両親の下でコーヒー生産に携わり、そこから国内トップクラスの農園にまで成長させた立役者。そして05年にCOEで優勝したことにより、それまで無名の存在だったコーヒー生産者たちに名があることを世に知らしめた、まさに「コロンビアのスペシャルティコーヒーの父」とも言える存在だった。

リカウルテ・エルナンデスさん
リカウルテ・エルナンデスさん

 しかし13年、突然の悲劇がリカウルテさんの身に降りかかる。強盗に襲われ、命を落としてしまったのだ。

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