新たなテクノロジーはコーヒーの未来をどう変えるのか?

 リカルドさんとの2年ぶりの再会となった今回の訪問で話題の中心となったのは、さらにニッチ化が進む発酵テクノロジーについてであった。

 豆の品質はテロワールによるのが大前提ではあるが、マイクロミルはそこにハニープロセスに代表される独自の生産処理を施すことで、あるいは世界中のバイヤーの高度なリクエストに対応する技術力を磨くことで自身の付加価値を生み出してきた。

ロス・アンヘレス マイクロミルの施設
ロス・アンヘレス マイクロミルの施設

 目下世界のコーヒートレンドは発酵そのものにある。アナエロビックと呼ばれる嫌気性発酵やイーストを添加した発酵、乳酸菌を使った発酵といったさまざまな発酵の研究がなされ、ここ4、5年である程度の結果もついてくるようになった。リカルドさんらも顧客のリクエストに応じて(つまり売れるので)そうした発酵を手がけているものの、本音ではこの乱立気味のトレンドにどれほどエネルギーを割いてよいのか分からない。そこで私の立場からはこのテクノロジーの価値をどう見ているのかと問われたのだ。

 私はこう答えた。「それなりにいいものを安定して、かつ大量につくるには有効なテクノロジーだ」――これは揶揄(やゆ)でもなんでもない。スペシャルティコーヒーにおいては酸が最も重要視される要素で、酸のポテンシャルは基本的に産地の標高に依存する。ただ現在研究されているようなテクノロジーを活用できれば、標高の低い産地のコーヒーであっても酸をブーストすることができる。80点のコーヒーを84、85点にすることが可能になるのだ。

 その結果は私たちに何をもたらすのか。端的に言えば、世の中すべてのコーヒーをおいしくすることができるのだ。コマーシャルコーヒーと呼ばれる大量消費向けの商品でさえ、あるいはスペシャルティコーヒーの品質に肉薄することが起こりうるかもしれない。

 現在は超極上のクオリティーを追求するニッチなテクノロジーではあるが、それは車で例えるならばF1のようなもの。そこで培った技術が自家用車に転化されることでベネフィットを生むように、コーヒーの世界においても現在の研究の真価はもう少し先に表れてくるはずだ。

 悲観的な話になってしまうが、遠からぬ将来、コーヒーそのものの品質は落ちざるを得ないと私は予想している。原因は温暖化だ。標高1800メートルの産地でもこの20年で明らかに体感できるほどの気温の上昇が見られ、いずれそれがコーヒーの品質に影響を及ぼすことになるのは想像に難くない。

 新たなテクノロジーには安全性をはじめ多くの課題がつきまとう。しかし未来を冷静に見据えるならば、コーヒーの可能性を広げるうえでそれはもっとポジティブに迎え入れるべきものではないかと思うのだ。現在はまだ過渡期。リカルドさんのような熱意あるマイクロミルの手を借りて、私たちはその芽を大きく育てていく必要があるだろう。

取材・文=永島岳志

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