3度の優勝を手にした中米ドリームの体現者
スペイン語で「富める海岸」を意味するコスタリカ。南北アメリカ大陸をつなぐ地峡地帯にあり、恵まれた自然環境を生かしたエコツーリズムを主要産業とする環境保護先進国としても名高い。

国土は九州と四国を合わせたほどで、コーヒー栽培を担うのはそのほとんどが小規模農園だ。ただ今回の話の舞台はコーヒー農園ではなく、コーヒーの小規模生産処理施設であるマイクロミル。マイクロミルの役割やその成り立ちは後述するとして、まずはそのうちの一つであるロス・アンヘレス マイクロミルへと話題を移そう。
首都のサン・ホセから車を走らせること約2時間、タラマンカ山脈の峠を越えた先のタラス地区にロス・アンヘレス マイクロミルはある。今年の6月、新型コロナウイルス禍による空白期間を経て、私は約2年ぶりにオーナーのリカルド・カルデロンさんとの再会を果たした。落ち合ったのはマイクロミルの隣にオープンした彼の経営するカフェ。テラスから麓の街の眺望を楽しめる、すてきな空間でフレッシュなコーヒーを味わいながら、私はリカルドさんをはじめとする近隣の生産者たちと久しぶりに膝を交え、互いの近況の話に花を咲かせた。
リカルドさんはいわゆるたたき上げの生産者だ。1999年に彼がコーヒー栽培をはじめた当初、彼が所有していたのはフルーツ農園を営んでいた父親から譲り受けた、わずか4ヘクタールの小さな土地だけだったという。

少年時代はかなり貧しい家庭環境で、「初めて靴を買ったのは18歳の頃だった」と彼から聞いたことがある。そんな状況からはい上がり財を成したリカルドさんは、まさに中米版のサクセスストーリーの体現者といえるだろう。
丸山珈琲がロス・アンヘレス マイクロミルとの付き合いを開始したのは2010年。現地の輸出業者からの紹介がきっかけだった。リカルドさんはその前年にマイクロミルを立ち上げたばかりだったが、豆のサンプルをテイスティングしてみるとフルーツや花の華やかな香りを感じるすばらしいフレーバーで、私はすぐに彼が生み出すコーヒーの虜(とりこ)になった。
その翌年の11年、リカルドさんの名は世界のスペシャルティコーヒー界隈(かいわい)に広く知れ渡ることとなる。コーヒー豆の国際品評会であるカップ・オブ・エクセレンス(COE)で初優勝を飾ったのだ。その後18年に2度目の、22年には3度目のCOE優勝を果たす快挙を成し遂げ、今では名実ともにコスタリカの名門コーヒー生産者としての地位を確立している。
ちなみに、11年と18年の優勝豆をオークションで落札したのは丸山珈琲を中心とした共同買い付けグループだ。中でも18年は1ポンド(≒453g)約300ドルというCOE史上最高落札価格だったことから、当時ちょっとした話題にもなったということも添えておこう。
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