おいしいブラジルコーヒーのど真ん中

 ブラジルは生産量・輸出量ともに世界最大の、正真正銘のコーヒー大国だ。1727年にフランス領ギアナからブラジル北部のパラー州に種と苗が持ち込まれたのがブラジルにおけるコーヒー栽培の起源といわれ、19世紀半ばには世界最大のコーヒー生産国に上り詰めたという。今回はそんな連綿と続く歴史の最前線に立つ、あるコーヒー生産者の話をしよう。

ブラジルにはもともとコーヒーが寄生していなかったが、苗木が持ち込まれ、世界最大のコーヒー生産国になった(写真=Shutterstock)
ブラジルにはもともとコーヒーが寄生していなかったが、苗木が持ち込まれ、世界最大のコーヒー生産国になった(写真=Shutterstock)

 あれは2001年、ブラジルのスペシャルティコーヒー協会が米フロリダ州マイアミで開催した船上パーティーでのことだった。スペシャルティコーヒーの生産者とのダイレクトトレードの実現に向けて日々画策していた若き日の私は、業界の一流たちを前にして「この機会を無駄にはするまい」とひそかに意気込んでいた。

 幸いなことにそこであいさつを交わした一人が、今では丸山珈琲と最も付き合いの古いコーヒー生産者となった。彼の名はエンリケ・ジアス・カンブライアさん。今回の話の舞台であるサマンバイア農園の農園主である。

エンリケ・ジアス・カンブライアさん(C)San Coffee
エンリケ・ジアス・カンブライアさん(C)San Coffee

 パーティーの約半年後、カップ・オブ・エクセレンス(COE)というコーヒー豆の国際品評会がブラジルで行われた。そこで入賞したサマンバイア農園の豆を丸山珈琲が落札したことから彼と私の付き合いは始まった。お互い年齢が近かったこともあって意気投合し、以降少しずつではあるがサマンバイア農園の豆を仕入れるようになったのだ。

 私がほれたその味わいは、まさに「本当においしいブラジルコーヒーのど真ん中」。ミルクチョコレートやビターチョコレート、キャラメルのようなしっかりとコクを感じる甘さがありつつ、万人に好まれる飲みやすさを兼ね備える。サマンバイア農園がつくり出すコーヒーには、そんなブラジルコーヒーの王道の魅力が詰まっている。

 現在、ブラジル国内でコーヒー生産量トップを誇るのが南東部に位置するミナス・ジェライス州だ。かつては金の採掘で栄え、その衰退とともにコーヒー栽培が盛んになった地域であり、なかでもスルデミナス(南部ミナス)と呼ばれる一帯はナチュラルという非水洗式の生産処理方法が伝統的に強く、昔から品質の良いコーヒーが収穫できるといわれていた。田舎町、サントアントニオ・ド・アンパーロに所在するサマンバイア農園も、このスルデミナスに属している。

サマンバイア農園
サマンバイア農園
右端がカンブライアさん
右端がカンブライアさん

 サマンバイア農園は設立から120年を数える名門だ。カンブライア家によって代々営まれ、現農園主のカンブライアさんは4代目。1998年からスペシャルティコーヒーの生産を手掛け、その3年後には前述のCOE入賞を果たすなど、スペシャルティコーヒー界隈(かいわい)で彼は早くも頭角を現していた。

 順風満帆なサクセスストーリー。ところが一転、その後カンブライアさんにとって苦難の時代が長く続くことになる。理由はパルプトナチュラルという新たな生産処理方法の台頭にあった。

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