知られざるコーヒー大国・インド

 多くの日本人にとって、インドといえばアッサムやダージリンに代表される茶の産地のイメージが強く、コーヒー豆の産地というイメージはないかもしれない。だが実際は世界でトップ10の生産量を誇るコーヒー大国だ。2002年にFlavour of Indiaというコーヒー品評会が初めて開催されて以降、インド国内におけるスペシャルティコーヒーの影響力も高まり、輸出のみならず国内消費も増加傾向にある。

インドはコーヒー大国だ(写真=Shutterstock)
インドはコーヒー大国だ(写真=Shutterstock)

 仕事で出会ったあるインド人には「ケンタロウ、(首都の)ニューデリーにはチャイ屋ばかりあると思っているだろう? 今はコーヒーショップばかりだぞ」とくぎを刺された。スターバックスやコスタコーヒーといったグローバルブランドのほか「Café Coffee Day」や「Blue Tokai」といったインド発のコーヒーチェーンも人気で、ニューデリーを中心に全国へ店舗を展開しているという。

インドで人気のコーヒーチェーン「Caf&eacute Coffee Day」
インドで人気のコーヒーチェーン「Café Coffee Day」

 日本人がインド産のコーヒー豆になじみが薄いのにはそれなりの理由がある。それは主たる輸出先が欧州だからだ。インドのコーヒー豆はアラビカ種であっても酸が少なく、酸のあるコーヒーを好む米国はインドのコーヒー豆をさほど使わない。そんな米国での不人気さも相まって日本でも使われにくい、という実情があるように思う。

 一方で、欧州におけるインドコーヒーの評価は正反対だ。米国ではデメリットと捉えられる「酸がない」という特徴が、欧州ではむしろ歓迎される。特に伝統的なイタリアンエスプレッソの世界ではその嗜好が顕著で、酸があるコーヒー豆は全く望まれていない。酸が少しでもあると「ダメダメ、替えて」となってしまう。

 以前、あるシェフにコーヒーの味作りを依頼されたことがあったが、そのときもエスプレッソの味がなかなか決まらず苦労した思い出がある。丸山珈琲で扱う豆は高地産の豆が多く、どんなに深く焙煎しても酸が出てしまうからだ。そのシェフには「イタリアワインにしてもフランスワインにしても酸がしっかりある。僕の料理も酸を攻めている。2時間のコースで酸を味わった後でさらにコーヒーで酸を感じたいって思わないでしょう?」と問われ、なるほどと思ったものだ。

思い出の地ゆえの葛藤

 丸山珈琲でインド産のコーヒー豆を取り扱うようになったのは2017年と比較的最近のことになる。同じアジア圏のコーヒー豆としてはマンデリンに代表されるインドネシア産のものがこれまで定番としてあった。両者とも似たような気候や地理的環境で栽培されていることから、私はインドコーヒーもインドネシアの豆と似たベクトルの個性を持っていると考えていた。実際、インドネシアの豆もインドの豆も共通して、酸を中心としないフレーバーで独特のスパイシーさを有している。

 しかしこのインドネシア産のコーヒー豆の価格が、数年前からひたすら高騰していた。某大手企業が買い占めたらしいなどという噂もまことしやかにささやかれた。その真偽はともかく、このままではインドネシア産の豆を買い続けることができないかもしれない。そうした危惧を前に、私は改めてインドコーヒーと向き合うことになるのであった。

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