メニュー表の片隅にあったペルーコーヒー

 南米大陸の太平洋岸に位置するペルー。面積は南米で3番目に大きく、北はエクアドルやコロンビア、東はブラジル、南はボリビアやチリといった国々と国境を接している。沿岸部の低地はコスタと呼ばれる砂漠地帯、東部はセルバと呼ばれるアマゾン川流域地帯、そしてシエラと呼ばれる中央の山岳地帯にはアンデス山脈が南北に貫いている。

南米大陸の太平洋岸に位置するペルー。南米におけるコーヒー豆の生産量では、ブラジル、コロンビアに次ぐ3番手(写真:Shutterstock)
南米大陸の太平洋岸に位置するペルー。南米におけるコーヒー豆の生産量では、ブラジル、コロンビアに次ぐ3番手(写真:Shutterstock)

 私は仕事柄さまざまなコーヒー生産国を訪れるが、滞在中はビジネスの用件に始終することがほとんどで、観光に精を出す気分にはなかなかならないもの。だがペルーはそんな私でさえ、ゆっくり遺跡めぐりでもしてみたいと思わせる魅力あふれる国だ。

 ペルーといえばマチュピチュ遺跡やクスコに代表されるインカ帝国の遺産、あるいはナスカの地上絵などの観光地が有名だが、多様な食文化も見逃せない。首都のリマには星付きのガストロノミー(美食)が軒を連ね、山岳部に分け入ればクイ(テンジクネズミ)料理やチュペ(煮込みスープ)といった伝統的なアンデス料理も味わえる。

世界中から多くの観光客が訪れるペルーのマチュピチュ遺跡
世界中から多くの観光客が訪れるペルーのマチュピチュ遺跡
ペルーの代表料理の1つ、魚介マリネのセビーチェ(写真中央)
ペルーの代表料理の1つ、魚介マリネのセビーチェ(写真中央)

 多彩な魅力を持つペルーだが、翻ってコーヒー産地としての知名度はというと、決して高くはないのが実情だ。私が自家焙煎(ばいせん)珈琲店を営み始めた1990年代を思い返すと、問屋からコーヒー豆を仕入れる際に手渡されるメニューには目立つ位置に「ブラジル・サントス」「コロンビア・スプレモ」「タンザニア・キリマンジャロ」「インドネシア・マンデリン」といった有名銘柄が並んでいたが、ペルー産の豆は端っこに、控えめに「ペルー・チャンチャマイヨ」とある程度の扱いだった。

 当時はペルーコーヒーといえば、たくさんの種類の豆をそろえたい店や、月替わりで変わり種のコーヒーを扱う店が取り扱うような代物だった。私たちが入手できるのはコマーシャルコーヒー(大量生産向けのコーヒー)に限られていたこともあり、味にこれといった特徴もなく、私の記憶では仕入れたこともなかったように思う。

 そして時代は21世紀。品質を重視するスペシャルティコーヒーという新たな価値観が生まれ、未来志向の生産国を中心にスペシャルティコーヒーへとシフトしていく機運が高まる中、ペルーはその流れに乗れずに完全に取り残されてしまうのであった。

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