『地場まで行かなければ気がつけなかった農園のリアル』では、ホンジュラスのコーヒー農園を紹介した。家族経営によりなんとか成り立たせていた生活から、スペシャルティコーヒーにより変化した生活。実直に生きることで、チャンスをものにした。
今回は、私が足を運ぶコーヒー農園の中でも特に日本から遠い産地の一つボリビアを取り上げよう。現地でコーヒー豆の栽培のともしびを絶やさぬために活動する男について紹介したい。

ボリビアの大都市ラパスは標高3600メートルを超え「雲の上の街」と称される。コーヒーの栽培は標高が高い方が適しているといわれているが、これではさすがに高すぎる。
南米ボリビアについて、あまり知らない人が多いかもしれない。日本から直行便はなく、米国やメキシコなどを経由し、最低でも2回は乗り換える必要があり、日本を出国してボリビアのラパスに着くまで、丸一日はかかってしまう。
この国の観光名所といえば、ウユニ塩湖とデスロード(死の道)だろう。前者はフォトジェニックな画像で心を癒やしてくれるが、後者のデスロードは、名前の通り、心臓がキュッとなりそうな場所だ。デスロードの正式名称はユンガスの道。かつてラパスとユンガス地方を結んだ唯一の道であった。断崖絶壁を通る全長69キロメートルの道は未舗装で、ガードレールもない。高低差は4000メートルといわれている。

日本でいえば、石川県と岐阜県を結ぶ国道157号線の、福井と岐阜の県境付近の未舗装部分をぎゅっと狭くして標高の高いところを走るイメージだ。車1台がやっと通れるような狭い道にもかかわらず、そこを大型バスや貨物トラックが通る。しかも、このデスロードは一方通行の道路ではない。ギリギリで車のすれ違いをしなければならず、時にどちらが道をゆずるかで口論になり大渋滞になることもある。
コーヒー豆ももちろんこの道路を通って運ばれる。現地では10日に1台ほどの割合で車が崖から落ちると言われているが、救出されることはほぼ無い。見下ろして鳥が集まっていたら「あぁ、先週の車かな」などと判断しているそうだ。
今ではバイパスが通って比較的安全な道を走れるようになった。だが、デスロードしか道がなかった頃には、私自身も何度もこの道にはお世話になった。恐る恐る窓から顔を出して、下を見たことがあったが、タイヤから崖まで数センチ。その後は怖過ぎて、運転手の技量だけを祈りながら時間が過ぎるのを待っていたのが、今でも思い出される。
ただ、命懸けの冒険が目的ではない。その先には、心躍る農園が私を待っているのだ。
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