成功体験を独占しない器の大きさ

 ペドロさんがほかの農園と大きく違う点は、地主と小作農の関係性ではないところにある。それぞれの農園を任せられる人を育て、新たな農園を広げていく。地域生産者のパイプ役を買って出て、自立できなかった農園たちを育てる。もともとが流通業者であったペドロさんの目的は、生産者としてもうけることではなかった。ボリビアコーヒーがなくなってしまうという危機感こそが彼の原動力だった。

 だからこそ、彼はあるプロジェクトに着手した。

 それが、”ソル・デ・ラ・マニャーナ”だ。スペイン語で朝の太陽という意味を持つ、この言葉。ペドロさんが農園主の育成を行うプロジェクトだ。コーヒーの木を放置し、実が熟したら狩りのように穫りにいく農法ではなく、コーヒー豆の栽培から加工までのペドロさんの農園の生産プロセスを全て開示している。

 近代農法を習得することで、世界から後ろ指を指されるコカではなく、世界から驚かれ、求められるコーヒーの栽培を始めたい。そんな農園主を生むことが彼の目標なのだ。大規模な農園を多く持つペドロさんの成功は、これから始める農園主たちの目標となるはずだ。

 現在、世界のコーヒー市場におけるボリビアのシェアは非常に低い。しかし、ペドロさんのような国全体の農園を正しい方に向けようとする人と、適した栽培方法を始める農家、その味にほれ込む人がいることで、きっとボリビアのコーヒーは10年後、20年後には高品質コーヒーの産地としてしっかりとした地位を獲得しているであろう。

 次回は、中米の「ドミニカ共和国」。鎖国状態の珈琲農園がどう変化したのかを現代珈琲史としてお届けする。

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この記事はシリーズ「丸山健太郎の「現代珈琲史」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。