最新鋭の農園スタイルを作り出す

ボリビアの農地はコーヒー農家にとって実に恵まれているものだった。恵まれていたと言った方が正確かもしれない。
肥沃な大地に、最適な高度。コーヒーの苗木をポンと植えれば、特に何も手入れをすることなく普通に豆がなる。ある意味で何も手を加えないから、究極のオーガニックなのだ。オーガニック認証を取得する農家が多く、そこが評価されアメリカ向けに需要を掴んでいた。
だが、現在オーガニックコーヒーの有力供給産地としての力は無い。最初は、放りっぱなしの作り方で1ヘクタールあたり1200キログラム程度の生豆を収穫できた。もともと鉱山労働者から転身した生産者が多く、施肥を怠ったために土地が徐々に痩せ、数十年かけて生産量は低下していった。最終的には1ヘクタールで60キログラムしか採れなくなるまでになった。実に20分の1にまで生産性が落ちたのである。 た。
このことが原因で、コーヒー豆を主作物とする農業協同組合や生産者組合が次々と破産していった。
そうした農家が戻っていった生産物といえば、そう”コカ”なのだ。コーヒーは1年に1回しか収穫ができない。だが、コカであれば年に3回も収穫できる。しかも、国内にはそれを高く購入してくれるマーケットも存在している。皮肉な言い方をすれば、ボリビアの中ではコカはサスティナブル(持続可能)な農作物なのだ。あの土地で生きるこということもあり、批判し難い文化だが、個人的には非常に残念な流れだと感じていた。
そんな中、現状を憂い、実直に農園を営む男と出会った。

それが、ペドロ・ロドリゲス(以下ペドロさん)さんだ。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産にも登録されている、サマイパタの砦(とりで)。そこからほど近くに農園を開いた。もともとペドロさんは輸出業者であった。だが、コカに再び置き換わる状況や、生産量が減るコーヒーを憂い、2012年に自分で農園を切り開き、挑戦したのだ。
ほかの農園は基本的に家族経営であるところ、彼は最初から近代的な農園を作り出すべく、法人化の道を選んだ。現在は12の農園を抱える大きな農園を持っている。
畑では、担当者が苗木ごとにチェックを行い、正しいタイミングで選定して実を摘んでいる。それまでのボリビアでは、とりあえず実がなったら収穫をするスタイルが一般的だったが、ペドロさんはスペシャルティコーヒーとしての味の核を守るプロセスをしっかりと踏んでいる。
農園開拓のスタイルも実に現代的だ。周りの畑をどんどんと買収していくのではなく、航空写真を見ながら目星をつけ、土は化学分析。その後、最適な品種の豆を選んだうえ、農園をデザインする。組織的に働き手の統制を取りながら豆を作っていく。
視点を外に向けている点もまた、現代的だ。ペドロさんは他国の生産者とFacebookやInstagramでつながり、情報交換を欠かさない。最新の生産方法や、自分の農園での好事例のフィードバックなどを共有。ハイテクを使いこなしつつ、アナログに豆を作る。農業指導などはそこそこに、コンサルタントとして全体を見ながら、トライアンドエラーを繰り返す。そうした現代農家の最先端を行くプロセスを続けたからこそ、彼は差別化されたスペシャルティコーヒーを作り出すことに成功したのだ。
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