知られていなかった、ボリビアコーヒーの魅力

 コーヒー農園に入る前に、この国の特殊な農作物について触れておかなければならない。それは「コカ」の葉だ。乾燥したコカの葉を噛むと元気になるので、現地の人たちはほっぺを膨らませながら噛んでいる。空気の薄い地域で高山病に負けずに活発に生きるため、現地の人たちにとっては必要不可欠で、ある意味、神聖な農作物なのだ。ただ困ったことに麻薬コカインの原料ともなる葉で、世界の常識で言えば好ましくないのだが……。エボ・モラレス元大統領の実家がコカ農家ということもあり、大々的に合法化し生産拡大を行っていた時期もあったほど、ボリビアでは重要な農作物だ。

 ただ、自国でのコカの葉の消費ならまだしも、コカインに精製して海外に流していくとなると別問題だ。米国としては、自国へのコカインの流入を抑えたいという思惑があり、コカ農家たちに別の農作物に転換させるプロジェクトが起こった。それが、「スペシャルティコーヒー」と「茶」だった。

 ボリビアには広大で肥沃な土地があり、農作物を育てるのには最適だ。薬物の流入を抑え込みたい米国と、コカに頼らず生活をしたい農家との思惑が合致。茶は上手にブランド化できなかったものの、1950年代に行われた農地改革でコーヒー栽培を推進していた経験もあったため、スペシャルティコーヒーが根付きやすい土壌はあった。

 ただ、数ある産地の中でも、ボリビアにしかない魅力に気づく人は少なかった。デスロードに代表されるようなアクセスの悪さもあり、バイヤーもあまり着目していなかった。世界中の産地を駆け巡る私でも、USAID(米国国際開発庁)のプロジェクトにテイスターとして誘われるまで、自ら足を運ぶことはなかった。

 テイスターとして参加した際には、ここまで入れ込むつもりはなかった。言い方が悪いが、ボリビアのコーヒー農園を知る人は一握りだ。だが、この豆と出合ったとき、トレジャーハンターが宝物を見つけたときのような喜びだったのを今でも覚えている。

 ボリビアの豆はほかの産地のものに比べて豆自体が硬く、焙煎(ばいせん)してもなかなか火が通りにくい。扱いは難しい半面、しっかり焙煎できると素晴らしい味を楽しむことができる。一般的にはほとんど知られていないし、極端に生産量が少ない。そうしたほかのコーヒー豆との違いが、丸山珈琲としての差別化にもつながるといった気持ちもあり、この豆を応援しようと心に決めたのだ。

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