2つの悩ましき課題
なぜ貧しいのか。その理由は大きく2つある。「小規模農園ならではの課題」と「ホンジュラスならではの問題」だ。
COEなどの品評会で高い評価を得ることで、小規模生産農家にも美味しい豆を作る実力がある点は、バイヤーを中心とした業界関係者にもだんだんと分かってきた。だが、農園が評価されることと実際に高い利益を享受できるまでには時間差があった。間に入る中間事業者の問題があったからだ。取りまとめ役としての強い立場を利用して、農園には安価な価格を提示し、バイヤーには「世界で評価されたのだから」として高い価格を出す。その差は大きく、また外からは見えないものだった。高品質な豆を持続して作ってもらいたい。その思いをもって海外のバイヤーは正当な対価を農家に支払ったつもりでも、中間業者によってそれがむしり取られるケースがあった。
ティトさんの農園も、近隣の農家が高評価を受けることに刺激を受けスペシャルティコーヒー作りに挑戦した。高評価を得たものの、中間業社から提示された価格の上昇は微々たるものだった。結果、期待したほどの収入の上昇は見込めなかった。だから、実際に農園で見た彼の生活は、私が想像する貧しさよりも極端なものであった。家族経営のため、負の状況であっても従業員のような給与は発生しない。結果、なんとか生活はできてしまっていた。それが課題の拡大に拍車をかけたのではないだろうか。
もう1つはホンジュラス自体の貧しさだ。人口の7割が農業で生計を立てるほど、1次産業に頼っている。コーヒー豆以外ではバナナも名産の一つだ。しかし、貧しい国の産物はどうしても強い経済力を持つ国や企業に買いたたかれてしまいがち。それに失望して、違法薬物の生産などに手を染める人もいれば、米国に密入国する人もいる。そうした国内環境の正常とは言い難い現状が、多くの人に諦めを与えていた。
コーヒー農園が多い地区の標高は1400~1800mと高い。豆の生育に最適な平均気温は23度前後とされるが、ティトさんの地域は内陸地ということもあって、雨が多い。湿気が多いと、豆の乾燥に時間がかかったり品質劣化が起きたりしやすい。そういった課題を解決していかなければならないが、貧しいがために設備投資が難しく、結果的にいい豆を作っても他国より突出できず、また持続できない問題につながってしまっていた。
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