「相場下落で地獄を見た珈琲農園を救った『正しい価値』」では、業界や農園全体の大きな変化について紹介した。今回からは、実際に丸山自身が見てきた個々の農園の「生き様」、そして緩やかだが大きく変化してきた現代珈琲史について、それぞれの国・地域の1つの農園を通して、深掘りしていきたい。

 コーヒー豆の農園というと、みなさんがイメージするのはどういったものだろうか。テレビコマーシャルやドキュメンタリーなどでよく取り上げられるのは、コーヒーの木が畑にたくさん並び、農夫たちが笑顔で実を摘む様子ではないだろうか。

 こうした、大規模な農園では、主に「コマーシャルコーヒー」と呼ばれる豆を作っており、インスタントコーヒーや缶コーヒー、業務用のコーヒーなどに使用される。一気に実った豆を収穫するため作業効率がよいことが特徴で、価格を安く抑えられるメリットもあるが、質はまちまち。こうした農園は生産量が多いが、数としては少なく、全体の3%程度といわれている。

 今回紹介するのは、大規模な農園とは対照的な家族経営の本当にこぢんまりとした農家だ。小さな農園が作るコーヒー豆は、みなさんのイメージを大きく変えるのではないだろうか。

美味しい一杯はホンジュラスにあった

(画像:Shutterstock)
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 今回の舞台は、南米のグアテマラやコスタリカなどに挟まれた地、中米ホンジュラス。赤道を中心にしたコーヒーの栽培地となる熱帯地方を「コーヒーベルト」と呼び、その中の1カ国だ。世界を飛び回る読者の方々でも、実際に行ったことがある人は少ないのではないだろうか。中米の中でも、最も治安が悪い国の1つで、ギャングが縄張り争いを繰り広げ、違法薬物の栽培も行われるなど、その治安の悪さは世界的に有名だ。そのことから、ホンジュラスに行ったことをネットに書いただけで、麻薬検査官から執拗に調べられてしまうほど(笑)。

 だが実際に、ホンジュラスに行ってみた私の印象は正反対。まっとうに農業を営み本当に美味しい豆を作ろうとする農家が現地にはたくさん存在していた。ホンジュラスの西側、レンピーラ県に住むティト・バレンティンさん(以下ティトさん)もその一人。ティトさんは、前述したような大きな農園ではなく、家族経営の小さな農家だ。