コロナ禍で仕入れ業者の会社が倒産

 コロナ禍前は、ピーク時には満席の繁盛店であった「地鶏酒房 万徳」。しかしコロナ禍が収束しないうちに、原油高や円安、ロシアによるウクライナ侵攻などの新たなダメージも重なり、厳しい状況は続く。「地鶏酒房 万徳」店主である村上聡氏(以下、村上氏)にお話を伺った。

村上聡(むらかみさとる)氏。代官山のイタリアン「リストランテASO」の立ち上げメンバー、自由が丘のフレンチ「ラ・ビュット・ボワゼ」を経て、2009年、「地鶏酒房 万徳」料理長に就任。20年から店主となる
村上聡(むらかみさとる)氏。代官山のイタリアン「リストランテASO」の立ち上げメンバー、自由が丘のフレンチ「ラ・ビュット・ボワゼ」を経て、2009年、「地鶏酒房 万徳」料理長に就任。20年から店主となる

最初にコロナ禍はかなり厳しかったと聞く。どんな状況だったか。

村上氏:売り上げうんぬんより、一番大きなダメージは21年2月に、取引していた鶏肉の仕入れ業者の会社が潰れてしまったことだ。「万徳」の宮崎地鶏は宮崎県の業者から、その他の鶏は、その倒産した山梨県の業者から仕入れていた。

というのも、チキン南蛮などに使う柔らかい鶏肉として、山梨県の地鶏「甲斐の極み鶏」を使用していたのだ。その業者は朝に絞めた鶏肉をその日の夕方に届けており、比内地鶏や名古屋コーチンなども扱っていた。その業者の会社のようにバランスよく、かつ幅広くそろえ融通が利くところがなく、結局、人気メニューのいくつかを断念せざるを得なかった。

店の売り上げの減少が最大の死活問題だと思ったが、仕入れ先がなくなるのは同等に大ごとだ。次の仕入れ先は見つけるまで日数はかかったのか。

村上氏:約1カ月かかった。現在は岩手県の銘柄鶏「あべどり」を提供している仲介業者と契約している。また、岩手県のお米「銀河のしずく」を広く知ってもらうために、このブランド米を採用し、1キロ分を来店した400人ほどに提供した。これらの活動が評価され、21年11月に岩手県の達増拓也知事により、「黄金の國、いわて。」応援店として登録された。

村上氏による岩手県の食材の応援が実り、「黄金の國、いわて。」応援店として登録された
村上氏による岩手県の食材の応援が実り、「黄金の國、いわて。」応援店として登録された

原油高や円安、ロシアによるウクライナ侵攻などで食材や酒類が値上がりしている。「万徳」も値上げをしたのか。

村上氏:酒類の値上げをした。生ビールは700円から750円に、サワーはレモンが値上がりした分、レモンサワーのみ600円から700円に、日本酒は、もともと価格設定が低かったのだが、景虎や天狗舞などは一合700円から1000円に変更した。

お客様の意見をくみ取った価格改正を実施する

料理に関してはどうか。

村上氏:実は「万徳」はこの10年間、メニュー価格を変えていない。来るべき価格改正に備えて、食材ロスになりそうなメニューは全て排除し、最小限の値上げで済むよう、鋭意調整中だ。また、コロナ禍で離れていた常連客が戻りつつあるので、来客したら1人ひとりに声をかけて、値上げのことを伝え、意見や要望をもらっているところだ。

 「どのくらいまでの金額なら値上げしても納得してくれるか」「ポーションを減らしてもいいから価格を現状維持した方がいいメニュー」などをヒアリングしている。お客様の意見をくみ取った価格改正をしていきたい。

それは素晴らしい。しかし、すでに食材や酒類が値上げしているので、その間も利益を圧迫しかねない。何か対策や工夫はしているのか。

村上氏:国産の地鶏や鶏肉の仕入れ値はそれほど値上げされていないため、鳥のえさになる穀物代が上がったくらいだと思われる。まず野菜の仕入れ先を築地から、港区周辺にあるスーパーに替えた。特に、22年2月にオープンした「オリンピック」は、いい野菜を手ごろな価格で買えるので重宝している。いろいろと通っているうちにスーパーごとの野菜の良し悪しが分かってきたので、「この野菜ならこの店舗」と、買い分けている。野菜の仕入れコストはだいぶ安くなった。

なるほど。仕入れ先をスーパーに替えて、コストを抑えているのはいいアイデアだ。他には何か工夫していることはあるか。

村上氏:接待客が減り、客層が変わったのか、お酒を飲まずにウーロン茶などで食事をしている人も少なくない。飲み物の売り上げをカバーするためにも、ソフトドリンクは一律で100円アップした。

 またカウンター席には同業者や知人、友人などが座ることが多く、彼らには、その日にある食材で「おまかせ(のコース)」を提供することが多い。手間はかかるが、決まった食材に絞れるため、購入計画がより効率的になる。その結果、食材ロスを減らすことにもつながる。

「おまかせ」が気になる。それは一般客でもオーダーできるのか。また価格はどれくらいか。

村上氏:おまかせは、ドリンク別で1人7000円。料理は、前日までに好みを伝えてもらえれば、一般客にも、それに合わせて季節の食材を使った6品を提供する。

今後、どういう店にしていきたいか。

村上氏:飲食店にとって、厳しい時期はまだ続く。それでもわざわざ足を運んでくれた人に、うまい料理と酒で笑顔になってもらえれば、この上なくうれしい。寒い夜は、熱燗と宮崎地鶏のすき焼きで温まってほしい。

取材を終えて

 容赦ないスピードで外食産業の値上げラッシュが続いている中、お客様に値上げすることを直接伝え、さらに意見や要望をくみ取り、それを価格改正に生かそうとする「万徳」および村上氏は、とても丁寧な対応といえよう。

 ちなみに「万徳」にはカウンター席特典があって、カウンター席に座れば裏メニューも出してくれるらしい。イタリアン、フレンチ、和食と渡り歩いた村上氏の裏メニューは楽しみでもある。

 寒い季節は、すき焼きや水炊きで体の芯まで温まりたいものだ。

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