お取り寄せ料理には多くのメリット

 なぜこのような全国厳選お取り寄せのメニュー構成にしたのか。そこには大きな理由とたくさんのメリットがあったのだ。「烏森百薬」女将の里愛美さん(以下、里氏)に話を伺った。

里愛美(さとまなみ)氏。大手飲食店グループ勤務を経て、18年8月に飲食店運営およびコンサル業務などを行うミナデイン(東京・港)に設立メンバーとして参画。同年9月にグループ1号店である「烏森百薬」を立ち上げ、19年1月に女将として就任する。商品開発も担当する。自身が考案した「ミニ焼あんぱん バニラのっけ」(300円)は、締めのデザートとして人気を集めている
里愛美(さとまなみ)氏。大手飲食店グループ勤務を経て、18年8月に飲食店運営およびコンサル業務などを行うミナデイン(東京・港)に設立メンバーとして参画。同年9月にグループ1号店である「烏森百薬」を立ち上げ、19年1月に女将として就任する。商品開発も担当する。自身が考案した「ミニ焼あんぱん バニラのっけ」(300円)は、締めのデザートとして人気を集めている
温かい焼きあんぱんとバニラアイスの相性が抜群にいい「ミニ焼あんぱん バニラのっけ」。ポーションも少ないので締めに最適
温かい焼きあんぱんとバニラアイスの相性が抜群にいい「ミニ焼あんぱん バニラのっけ」。ポーションも少ないので締めに最適

なぜメニューをお取り寄せメニューで構成したのか。

里氏:いかに最高においしい料理を来店客に提供できるかを突き詰めたら、「名店のお取り寄せ」にたどり着いた。自分たちで作るよりも、その道を長年かけて究めた飲食業界の大先輩たちが作る料理のほうが断然おいしく、来店客も満足してくれるだろうと考えた。

 ただ、お取り寄せだからといって、電子レンジでチンではなく、「焼く」「揚げる」というひと手間は加えている。例えば、「『餃子の宝永』味噌ダレ餃子」の味噌ダレはお店で作っており、たっぷりかかっている刻んだ青ネギを足すなど工夫をしている。このスタイルによって、仕込み時間がほぼなくなり、調理時間も短く済む。そして何よりも意義があるのが、「食材の廃棄が限りなく少なくなる」ことだ。

これは目からうろこだ。人件費が高いすご腕料理人を雇わなくても、格別にうまい料理を提供できる。また、料理人が変わることによって料理の味も変わるという心配もない。素晴らしいアイデアだ。

里氏:アイデアを出したのは、弊社オーナーである大久保伸隆氏だ。洋服のセレクトショップはあるけど、飲食のセレクトショップはなかった。「烏森百薬」のコンセプトは、名店セレクトショップだ。

全国の有名缶詰をさかなにする立ち飲み屋はあったが、全国の名店のお取り寄せをひと手間加えて料理として出す居酒屋はありそうでなかった。お取り寄せはコストがかかるイメージがあるが、リーズナブルなモノをしっかりセレクトしているから、送料や人件費を合わせてもしっかり利益を出せていると思われる。

里氏:その通りだ。鶏の唐揚げは、新橋にあるグループ店である「らんたん」、千葉県佐倉市ユーカリが丘にあるファミリーレストラン「里山transit(トランジット)」のメニューにも入っているため、スケールメリットも出せる。

「絶メシ食堂」と「まぼろし商店」

ユニークな取り組みと言えば、ランチタイムに取り組んでいる「絶メシ食堂」や「まぼろし商店」もインパクトありだ。

里氏:「絶メシ食堂」とは、その地域で愛されているローカルグルメ(絶品飯)のレシピを提供してもらい、「烏森百薬」のランチで再現する取り組みだ。

昼間は、のれんや看板が変わり「烏森 絶メシ食堂」として営業している
昼間は、のれんや看板が変わり「烏森 絶メシ食堂」として営業している

里氏:その味を知っている人は田舎に帰らなくても新橋で、その料理を味わえる。そうではない人は、その地域に訪れる機会があれば、本場の料理を食べられる楽しみが増える。22年10月現在は、群馬県高崎市のからさき食堂の「白いオムライス」(900円)や千葉県木更津の大衆食堂とみの「ポークソテーライス」(1500円)などがある。

里氏:「まぼろし商店」は、惜しまれつつ閉店してしまった名店のメニューをレシピ提供により、復活再現する試みだ。例えば、神田キッチンビーバーの「メンチカツ定食」(1000円)がその1つ。現在はキッチンビーバーのママが週に数回、仕込みに来てくれている。レシピ提供店には、その商品の売り上げの5%を支払っている。

これもいい取り組みだ。現在、予約で8割方の席が埋まり、当日枠の席もすぐに埋まると聞いた。そんな繁盛店の「烏森百薬」だが、コロナ禍が始まった頃はどんな状況だったのか。

里氏:1回目の緊急事態宣言のときは東京都のガイドラインに沿って店を閉めた。店を開けないことで、今まで築いてきたお客さんとの縁が切れてしまうかもしれないと思うと、とても怖かった。ただ、閉めているときは、「前向きにできることをしよう」と、新メニューを考えたり、ノンアルコールでも楽しめるドリンクを全国から探したりした。

 その結果、時短営業でアルコール類を提供できないときでも、常連のお客さんが「会いに来たよ」「安否確認しに来た」と足を運んでくれた。お酒を出さなくてもお店のスタッフに会いに来てくれたと、いたく感動したことを覚えている。

それはうれしい話だ。コロナ禍は続いているが現在の来店客数はどうか。

里氏:来店人数は、コロナ前までほぼ戻ったと言える。大きな変化としては、コロナ前はランチ営業と夜営業の間に休憩時間を設けていたが、今は11時から23時(ラストオーダー22時)まで通しで開けている分、閉店時間を30分繰り上げた。そのおかげで土曜日に昼飲みをするお客さんが増えた。現在は日曜祝日休みで、月曜日のみ15時から営業している。

お店に行きたくても混雑していて、なかなか入れないことが予想される。狙い目の時間帯を教えてほしい。

里氏:ランチ目的のお客さんが帰る14時から(月曜日は15時から)16時までが狙い目だ。また席の8割は電話で予約を受け付けているので、電話のほうが確実。しかし連絡のない遅刻は、10分遅れで自動キャンセルになり、待っているほかのお客さんに席を譲ることになるので気をつけてほしい。

今後、どのような店にしたいか。

里氏:常に人が集まる楽しい店にしたい。新橋でどこに行こうかと迷ったら、「ここに来れば間違いない」と思ってもらえる店にしたい。そして「烏森百薬」の関係人口(関わる人たちの人の数)をどんどん増やしていきたい。お客さん、スタッフ、酒の業者など、みんなに境目のないフラットな関係を築くことが理想だ。

フレッシュな精鋭スタッフ。彼らのチームワークの良さも、お店のいい雰囲気につながっている
フレッシュな精鋭スタッフ。彼らのチームワークの良さも、お店のいい雰囲気につながっている

取材を終えて

 「よく、こんないい場所が空いていたな」と思えるほど最高のロケーションであった。フレンチ料理店の跡地を、多くの飲食関係者が「借りたい」と手を上げたそうだが、その中から見事、「烏森百薬」が選ばれたそうだ。

 2階席にはコインを入れてビールやハイボールを注ぐことができるセルフサーバーがあるので、酒を待つストレスは少ない。飲み放題メニューに入っていないレアな日本酒などは別途注文ができる。貸し切りも受けている。また、コースは料理8品に2時間半の飲み放題が付いて1人4000円から。料理9品なら4500円、料理10品でも5000円とかなりリーズナブルだ。

 そしてこの店の楽しみの1つが、グラスやお手洗いの壁面などに、お酒のうんちく名言がたくさん書かれていることだ。「誰もが何かを信じなければならない 私は酒を信じている」「酒を飲むのは時間の無駄 飲まないのは人生の無駄」など、なるほどと納得してしまう名言があるので見逃さないように。

 筆者の当面の目標は、全ての定食メニューと夜メニューをコンプリートして、来春までに常連入りすることだ。

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■モデレーター:鷲尾龍一(日経ビジネス記者)
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