「ORENO」の発案者であり、同店支配人兼シェフソムリエを務める長谷川純一氏(以下、長谷川氏)に、お話を伺った。

長谷川純一氏
長谷川純一氏
2013年、俺の株式会社入社。銀座「俺のフレンチ東京」や「俺のフレンチ・イタリアン青山」などを繁盛店に押し上げ、2021年7月「Grand Maison ORENO by 俺のフレンチ」支配人兼シェフソムリエに就任。第6回 Coupe Georges Baptiste 世界サーヴィスコンクール パリ大会 準優勝、第16回メートル・ド・セルヴィス杯 全日本大会優勝など受賞歴多数。シャンパーニュとフロマージュのシュヴァリエをも授与された現役ソムリエ講師でもある。

大手町ゴーストタウン化で繁盛していたステーキ店の売り上げ激減

「ORENO」の前は、グループとしても初の大手町エリアへの出店でステーキハウス「俺のGrill東京」として営業していた。どんな状況だったのか。

長谷川氏: 「俺のGrill東京」は、18年9月にオープンした。当時、「いきなりステーキ」がブームで、出店ラッシュだった。また六本木では高級ステーキハウスの「ウルフギャング・ステーキハウス」も人気で、「ベンジャミンステーキハウス」(17年6月開店)や「エンパイアステーキハウス」(17年10月開店)と相次いで海外の高級ステーキハウスが日本に上陸。当社がステーキ店を出店したのは、マーケティング的には間違っていなかったと思う。

 もくろみ通り、売り上げは順調で、ランチだけで約300人集客。目標の3回転を達成した。夜も単価7000~8000円で150~200人を集客。悪くても1回転はしていた。想定通り、大手町周辺で働く肉好きビジネスパーソンを集客できていた。

ターゲットの集客や売り上げは順調だった。しかし20年4月に緊急事態宣言が発出されてどうなったか。

長谷川氏: 緊急事態宣言が発出されたときは、店舗を閉店した。店舗内の確認などで何度も店舗に足を運んだが、あれだけ昼時、ビジネスパーソンであふれ返っていた大手町から人の姿が消えていた。まるでゴーストタウンのようだった。

 大企業が多い大手町は、国や都の指導に従ってテレワークの浸透率も高く、3~4割の出勤率で人が激減していた。緊急事態宣言が解除された後は、ランチのみ再開したが、1日30~40人しか来店せず、コロナ禍前の約1割まで集客が落ち込んだ。

予想以上に厳しい落ち込みだ。テークアウトやデリバリーはやらなかったのか。

長谷川氏: 俺のハンバーグ弁当(1500円)や俺のステーキ弁当(2000円)などを用意したが、テークアウトされるのは、たまたま近所の会社に出勤していたわずかな人たち。また「Uber Eats」や「出前館」などあらゆるデリバリーと契約したが、“大手町あるある”で、近所に住んでいる人がほとんどいないので全くといっていいほど動かなかった。またコロナ禍前はランチ時、東京サンケイビル前にキッチンカーが日替わりで数台止まっていたので、「俺のグリル」としてもキッチンカーを始めた。しかしせいぜい売れて1日3万円程度で、“焼け石に水”状態が続いた。

どこのエリアもコロナ禍は厳しかったと聞くが、特にビジネスパーソンで成り立っている大手町は想像を絶する厳しさだ。それで業態変更の流れになったのか。

飲食とエンタメの灯を絶やさない クラウドファンディングも実施

長谷川氏: 一番の理由は、飲食とエンターテインメントの灯(ともしび)を絶やさないため。そして世の中に必要とされるレストランであり続けるために、「俺のGrill 東京」は、「Grand Maison ORENO」として店名を改め、リニューアルオープンすることにした。俺のシリーズは、非日常を日常的な感覚で楽しんでいただく店舗として営業してきたが、コロナ禍において、お客様がレストランにお越しいただくこと自体がより「ハレ」の出来事になってきていることを実感した。安心・安全な空間であるというだけでなく、俺のシリーズのトップブランドとして「ORENO」を位置づけ、俺のシリーズ最高の体験価値を提供するレストランを目指していく。

なるほど、流行(はや)りの業態ではなく、俺のシリーズの基本コンセプトに立ち戻り、さらに進化させた新たなレストラン業態を目指していくことは理解できた。ちょうど安心・安全な空間という話が出たが、具体的に「ORENO」はどのような感染予防対策を行ったのか。

長谷川氏: 安心・安全な空間を実現するためにエントランスには、検温・消毒が自動で行われる機器を設置。「俺のGrill東京」時には138席あった席数を、最大80席まで減らしてパーソナルスペースをしっかり確保した。また既存の俺のシリーズ店舗では、アラカルトの1皿をシェアして召し上がっていただくスタイルだったが、おひとりでも召し上がりやすいサイズのコース料理を新設した。新型コロナウイルスが収束するまではアクリルボードや除菌スプレーを設置し、感染拡大防止にしっかり配慮している。

テーブル上にはアクリルボードを設置、ステージと客席の間にも大型パーティションを設置する徹底ぶりだ
テーブル上にはアクリルボードを設置、ステージと客席の間にも大型パーティションを設置する徹底ぶりだ

天井高があるのは換気の効率が良さそうだ。しかし理想と感染予防対策だけでは、この厳しいコロナ禍は乗り越えていけない。売り上げをカバーするために、何か具体的な施策は行ったのか。

長谷川氏:俺のシリーズ店舗をご利用いただいている全国の皆様に対して、“俺のシリーズ 大手町リニューアルプロジェクト”として「飲食とエンタメの灯を絶やさない」のクラウドファンディングを実施した。目標金額は500万円、目標金額の使途および実施する内容として、店舗リニューアルに際しての内外装工事費やレストランサービスの品質向上・感染拡大防止のために必要な備品・設備購入費用とした。結局、30日間で426人の支援者の皆様から736万8000円という大きなご支援が集まった。本当に感謝しかない。

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