新鮮な食材に職人の丁寧な調理。日本食は今や世界で愛される文化の域にまで上り詰めた。政府は本来予定していた2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて訪日外国人(インバウンド)を増やすべく、積極的に「開国」してきた。

 日本でなければ食べられない――。旅行を促す最大のツールの1つとして、外食産業はインバウンドを支えてきた。おもてなしの精神も地道な努力も、コロナ禍はすべて吹き飛ばしてしまった。海外客から人気の高い飲食店はコロナ禍にどう向き合ったのだろうか。

 今回は、インバウンド客による予約がたくさん入っていた日本料理店の代名詞とも言える高級すき焼き店、「人形町今半」を取り上げる。

 国・地域別の訪日外国人はかつて、韓国や台湾がトップだった。それが2015年に中国が首位となり、その後はずっと1位をキープしていた。日本中のあらゆる観光地に中国人が押し寄せていた光景はいまだ記憶に新しい。

 日本食の代表的存在の1つであるすき焼きも、海外客に人気が高い。コロナ禍前には、中国の旧正月の時期などは、人形町今半にも連日多くの中国人客の予約が入っていたという。

牛鍋屋の創業から127年

 「人形町今半」の歴史は長い。明治28年(1895年)に、現在の東京都墨田区の本所に牛鍋屋としてオープン。浅草に移転後、昭和27年(1952年)に今半の日本橋店としてのれんを掲げ、その4年後に「人形町今半」として独立したのが始まりだ。すき焼き店としては127年の歴史を持つ。現在、人形町本店(以下、本店)をはじめ、銀座や有楽町、新宿、池袋など都内を中心に14店舗を展開する。

 本店があるのは下町風情が残る人形町。薄い朱色である洗朱(あらいしゅ)の数寄屋造りの建物がひときわ目立つ。ここは、明治から昭和にかけて落語・講談とともに日本三大話芸だった浪曲の寄席として知られた「喜扇亭」の跡地でもある。その名残で本店1階の鉄板焼き屋に店名が付けられた。

人形町今半  人形町本店。通り側には直営の精肉店を併設。お店で出す厳選された牛肉を購入できると評判だ。隣には総菜店も構える
人形町今半 人形町本店。通り側には直営の精肉店を併設。お店で出す厳選された牛肉を購入できると評判だ。隣には総菜店も構える