節分を経て、季節は冬から春へと移り変わりつつある。卒業や入学、就職――。春の到来は、人の別れや新たな出会いを生む機会を多く演出する。そこには家族や友人らとの宴(うたげ)がつきものだ。飲食業界にとっては年末年始に続くかき入れ時である。

 だが、新型コロナウイルスの感染者は2月5日に国内だけで10万人を超えるなど、オミクロン株が猛威をふるう。重症化しづらいとはいうものの、病床使用率はじわじわと上昇する。まん延防止等重点措置に続く、2022年初の緊急事態宣言の発出も現実味を帯びてきた。飲食業界はまた冬の時代に突入してしまうのだろうか。

 「負けない外食」ではこれまで、銀座や六本木、赤坂、中目黒、麻布十番など都心の著名なエリアの店舗を紹介してきた。店舗の賃料や人件費が高く、コロナ禍の影響を大きく受ける一方で、潜在顧客を多く抱える店舗が少なくなかった。

 では都心からは少し外れた“下町”の飲食店は、コロナ禍をどう生き延びてきたのか。大手飲食店グループのような下支えもない、個人が運営する小さなお店はどう立ち振る舞ったのか。気になるところだ。

 今回は、東京都江東区・門前仲町の路地裏にある農業系居酒屋「 センマイル。」をピックアップしよう。同店は、常識を逆手に取り、斬新なアイデアをもってピンチをチャンスに変えてしまったお店だ。どんなアイデアなのだろうか。その答えを聞く前に、まずは同店がどのようなお店なのかを紹介しよう。

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