感染拡大が止まらない。国内の新型コロナウイルスの感染者が「過去最多」の数字にも、芸能人の感染と謝罪コメントを伝えるニュースにも、驚きを感じなくなってしまった。

 テレビや雑誌を彩る、影響力の大きい芸能人を顧客に持つというのは、飲食店にとっては1つのステータスになる。連載10回目に紹介するお店は、芸能人にも多くのファンを持つ高級うどん店「麺匠の心つくし つるとんたん」だ。

 運営するのは、ヒューリックと合弁で富裕層向けに「ふふ」シリーズのスモールラグジュアリーリゾートやホテルなども展開するカトープレジャーグループ(KPG、東京・千代田)。つるとんたんとしては現在、東京と大阪を中心に国内14店舗。海外は米国のニューヨークやボストン、ハワイに4店舗を構えている。

 今回はつるとんたんを語るうえで、絶対的存在の東京1号店である「つるとんたん 六本木店」にスポットを当てる。六本木の象徴でもある「ロアビル」の斜め前という"ど真ん中”に位置し、数々の逸話をつくってきた繁盛店だが、コロナ禍をどのように乗り切っているのか。そして多くの飲食店が加盟したフードデリバリーに踏み切るまで1年近くかかった理由とは? そこには繁盛店ならではの譲れない「こだわり」があった。

 「つるとんたん」の歴史は、元号が昭和から平成に変わった1989年に、大阪「ミナミ」の宗右衛門町にオープンしたのが始まりだ。

 開店当初から、当時のうどん店の概念を大きく覆す新たな試みを取り入れていた。うどん店のイメージからかけ離れたスタイリッシュな内装に、誰もが驚く大きさのうどん鉢。最大3玉まで同じ価格で提供するサービス。そして、午前11時から翌朝8時までの「21時間営業」など、あっという間に関西の“おうどん”ファンのハートをつかんだ。

 その後、大阪で3店舗(現在6店舗)に拡大。当初は東京への出店予定はなかったが、大阪に行くたびに北新地店へ通っていた女優の夏木マリさんから「東京でもつるとんたんが食べたい」という熱烈なラブコールを受け、KPGの加藤友康代表取締役兼CEO(最高経営責任者)が「夏木さんが女将(おかみ)のように応援してくれるなら」と承諾。それがきっかけで、2005年に東京1号店である六本木店がオープンしたというのは知る人ぞ知る逸話だ。

 夏木さんのアドバイスによって、芸能人など「顔バレ」したくないお客向けに、裏口から入れる個室や座敷を設置したそうだ。余談だが、関係者やメディアを集めたオープニングレセプションでは、夏木さんが女将のように着物姿で登場し、参加者にお酌をしてくれたのは感激であった(筆者は参加者)。

次ページ 店舗限定、エリア限定など約50種の「おうどん」