人の営みの中で生まれた悩み。数千年前、哲学者たちも同じことを悩んできました。毎回、現代人の悩みごとを2つの視点で切り取ります。モヤッとした悩みを解決したいとき、哲学に答えがあるかもしれません。今回のテーマは「締め切り」です。
仕事に締め切りはつきものです。1人ですべてが完結する仕事はありません。大半の人はチームや組織で仕事をします。仮に単独で何かを作っている人でも、顧客がいるはずです。
ですから、自分の仕事が滞ると、人に迷惑をかけることになります。私自身、原稿や大学の事務的な書類の締め切りを守らず、いつも周囲に迷惑をかけっぱなしで、今回のテーマは個人的にも耳が痛いです。
マルクス・アウレリウス「使命感を意識せよ」

さて、どうして人は締め切りに追われてしまうのか? 今回も2つの異なる視点からアプローチをしてみたいと思います。最初に登場するのは「ミスター使命感」、頼れる男マルクス・アウレリウスです。
何しろこの人は古代ローマ皇帝でありながら、戦場でのつかの間の休息に哲学書を書いていたというツワモノ。しかも五賢帝と呼ばれる中の1人です。
つまり、皇帝の仕事をきちんとやりながら、さらに哲学者としても名を残したというわけです。いやー、まったく頭が上がりません。どうして彼はこんな離れ業ができたのでしょうか?!
それはト・ヘーゲモニコンのおかげなのです。ト・ヘーゲモニコンとは、彼がくみしていたストア派の哲学原理のことで、「指導理性」などと訳されます。自分を指導する理性、いわば使命感のようなものです。だから彼のことをミスター使命感と呼んだのです。
いや、使命感は英語でミッションですから、ミッション・インポッシブルならぬミッション・ポッシブルと呼んだほうがいいかもしれません。何でも使命感で可能にする人ということです。
確かに使命感の強い人は、きちんと仕事をこなすものです。この場合の使命感とは、その都度やるべきことという意味でもありますが、突き詰めればもっと崇高な、自分は何のために生きているのかということなのだと思います。
だからこそアウレリウスは「今、君は何を考えているのか」と問われたとき、即座に答えられないといけないと言うのです。そして使命感が明確なら、ダラダラ過ごすことはないと主張します。彼は毎朝、自分にこう問いかけるように言います。私は布団の中でダラダラするために生まれて来たのか、と。
とはいえ、いくら使命感があっても、毎回時間通りに物事を終わらせるのは難しい。何か具体的なノウハウが必要ですよね。アウレリウスは、仕事に集中するための方法についてもしっかり論じています。
その秘訣は、不必要なことをしないこと。当たり前ではないかと思うかもしれませんが、これがなかなかできていない。仕事の遅い人ほど余計なことをしているものです。
気が散る人、すぐ休憩する人、あるいは優先順位が間違っている人……。それだけではありません。アウレリウスが指摘する余計なことには、ネガティブな思考も含まれます。「無理そうだ」「できない」と思ってはいけないと言うのです。
そうしたネガティブな思考は余計なものであって、それこそが仕事の障害になるというわけです。彼は「誰かにとって可能なことなら、自分にとっても可能だと思え」と言っています。まさにミッション・ポッシブル!
ここまで言われると、少々息苦しくなってきますが、大丈夫です。世の中には必ず反対の説を唱える人がいるものです。しかも、それはそれで説得力があり、きちんと結果も出せるのです。その説とは、米国の哲学者ジョン・ペリーが提唱する先延ばしのススメです。
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