人の営みの中で生まれた悩み。数千年前、哲学者たちも同じことを悩んできました。毎回、現代人の悩みごとを2つの視点で切り取ります。モヤッとした悩みを解決したいとき、哲学に答えがあるかもしれません。今回のテーマは「愛」。哲学でもよく議論されてきた話題です。
恋愛相談。果たしてこんな問題に対して哲学が口を挟む余地はあるのか。それが大ありなのです。そもそも哲学が始まったとされる古代ギリシャの時代、彼らが盛んに論じていたのは恋愛論だったのです。プラトンが著した『饗宴(きょうえん)』がまさに動かぬ証拠です。
饗宴とは宴会のこと。この本には、ソクラテスを含む当時の哲学者たちがお酒を飲みながら、「愛とは何か?」、「人はなぜ誰かを愛するのか?」と恋愛論を語る様子が描かれています。
プラトン「理想を求め続けよ」

例えば、この宴会の中でアリストパネスという人物は、神話を持ち出して愛を説明しています。その昔、顔が2つ、手足が4本ずつあるアンドロギュノスという怪物がいました。アンドロギュノスは、万能の力を使って悪さばかりするので、神によって真っ二つに引き裂かれてしまいます。そうして分かれてしまった2つの体は、また元の1つに戻りたくて求め合うのですが、それはかないません。これが求め合う男女の始まりだというわけです。
思わずなるほどと納得してしまいそうですが、プラトンの真意はここにはありません。なぜなら、この考えの根底には、私たちが互いに不完全なものを求めているという前提があるからです。人は完全なもの、理想を求めるはずだ。これがプラトンの基本的考え方です。その理想の世界をプラトンは「イデア」と呼びました。物事の本質が存在する架空の世界のことです。
かくして物語の最後に、プラトンは師匠ソクラテスを登場させます。そして本当の愛を語らせるのです。そもそも人間は死すべき存在なので、それゆえに永遠の理想としての完全なものを求めるというわけです。その情熱こそが愛の本質にほかならないと。
プラトンはその情熱を「エロス」と表現しています。エロスをいやらしい意味だと思っている人が多いですが、そうではありません。エロスこそが理想を追い求め続ける純粋な気持ちなのです。だから純愛のことをプラトニックラブというのです。これはプラトンの愛という意味です。
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