眠れぬ夜は、寝るな!

 そこでもう一つの提案をしたいと思います。これはある意味で不眠を避けるための処方箋です。スイスの哲学者カール・ヒルティの『眠られぬ夜のために』という本をご存じでしょうか。文字通り枕頭(ちんとう)の書として多くの読者に愛されてきた名著です。

 この本の中でヒルティは、どうすれば不眠を解消できるか論じています。というのも、心身の健康のためには、やはりぐっすり眠るのが一番だと考えているからです。もっとも、そのために彼が説く不眠解消法はとても逆説的なものです。

 なんとヒルティは、「眠れぬ夜は寝るな」というのです! 意外に思われるかもしれませんが、理屈を聞けば納得します。疲れているはずなのにどうしても眠れないということは、何か大きな気がかりがあるからです。ということは、それを避けていては、何日たっても眠ることができません。そんなふうになってしまうと危険です。

 だから、「一度徹底的にその気がかりなことに向き合え」というわけです。しかもヒルティは、「それは自分の人生にとってチャンスである」とさえいいます。それは「神のたまもの」にほかならない、と。実際、眠れぬ夜に自分の生涯の決定的な洞察や決断を見出した人はたくさんいるようです。

 とはいえ、ただ考えるだけでは堂々巡りになりかねません。ヒルティが勧めるのは、自分のことを真に思ってくれる人ならどんなアドバイスをくれるか考えるという方法です。あるいは優れた本でもいいといいます。何か答えを出すための手助けがあるといいというわけです。

 考えるなというメルロ=ポンティの立場とは真逆にも聞こえますが、ヒルティだってずっと考え続けろとはいっていません。むしろ考えずにぐっすり眠れるよう、一気に集中して考えよといっているだけです。

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