ロードローラーの前で小銭を拾う危険性
前述の通り、世界的にも日本人の無類の外国為替証拠金取引(FX取引)好きは有名です。リスク性の高いFX取引ではありますが、多くの投資家がどっぷりつかってしまう理由も分からなくはありません。レバレッジ(てこ)の魔力によって、保有金額以上の資金で通貨を売買することができ、成功すれば信じられないようなリターンを稼ぐこともできます。首尾よくいけば、FX取引で「億り人(おくりびと)」も夢ではないかのように錯覚してしまいます。
しかし、レバレッジを効かせてのFX取引は単に借金をしてギャンブルをやっているのと実質的に同じであることを理解しなければなりません。借金した分だけ賭け金が大きくなるから、損益もその分大きくなる。それだけなのです。借金であれば小さくない金利負担を強いられるのですが、現在では円金利が低すぎることから、レバレッジによって「借りたお金」に対して高い金利を払う必要はありません。 現在では、金利の著しく低い日本円の金利を払ってはいるものの、より高い外国通貨の金利を受け取れるため、レバレッジのメリットが大きいと錯覚してしまいます。
そして、その借金も取引口座の設定画面をいじるだけで、掛け金の最大25倍まで借りることさえできてしまいます。そのため、レバレッジという名の借金をすることに抵抗を感じる人は多くありません。そのうえ、テクノロジーの発達により、スマートフォンのアプリを通じて、いつでもどこでも、瞬時に為替を売買することができてしまう。こんなに簡単に金を借りられ、手軽に賭けることのできるギャンブルのようい思える取引は他には存在しません。
しかし、しつこいようですが、投資の世界に「フリーランチ」は存在しないのです。その手軽さには非常に大きなリスクが伴います。証拠金取引で主要な戦略の一つである「スキャルピング」。これは、短期間での細かな値動きを収益機会にする戦略を意味します。この戦略を、資産運用の世界でよく使用される言葉で表現すると、「ロードローラーの前で小銭を拾う」ようなものなのです。目前に迫りくる危機を前に、細かな利益を稼いでいくことは、市場における値動きが緩やかな場合は問題が少ないでしょう。しかし、ひとたび市場に大きな地殻変動が起きたときに、抱えきれないほどの大きな損失を被るリスクが潜んでいます。これはスキャルピングという戦略に限らず、レバレッジを活用する取引全般に当てはまります。
含み損を抱えたとしても、一時的な市場の動きによるものと考えるのであれば、市場が落ち着けば元の水準にまで戻り、含み損も縮小ないしは解消される可能性も考えられるでしょう。しかし、レバレッジがかかっている場合は、悠長にその時を待ってはいられないのです。なぜなら、掛け金がマイナスになれば強制決済(強制ロスカット)を強いられるからです。掛け金を増やして、強制決済を避けることもできますが、さらに資産を食いつぶすリスクのある選択肢を選べる人はそう多くはないでしょう。
市場の値動きが緩やかなときは、レバレッジを活用して小銭を拾うことができるかもしれない。しかし、ひとたび市場が大きく動けば、ロードローラーに潰されてしまうリスクがあることに留意しなければなりません。
Powered by リゾーム?