資産切り崩しのタイミングに注意

 先に挙げた理由により、長期で投資をするならば、ヘッジを付けず為替リスクを負いながら投資することを検討すべきでしょう。投資期間中には、ブレグジット(英国のEU離脱)決定後の英ポンドや東日本大震災直後の日本円のように、通貨が大きく動いてしまうことも十分あり得ます。しかし、巨額なヘッジコスト負担と比較してみた際に、株式や債券からの投資利益に加え、こうしたヘッジコストを負担しないことによる効果から考えると、為替変動リスクもコスト負担との比較では、大きいものではないと考えることもできます。

 一方、留意すべき点は、資産の切り崩しタイミングです。個人資産に占める外国通貨建て資産の比率が高い場合、資産切り崩し期において為替水準に関係なく、資産売却を進めなければなりません。その場合は、外貨ヘッジをかける比率を高めるなどして、全体のリスク量をコントロールすべきでしょう。

 また、為替ヘッジが可能な通貨は、実は種類が限られているのです。投機的な動きによって為替レートが大きく変動してしまうことを抑制するため、実際の投資や貿易以外の目的で通貨を保有することを禁じる国は少なくありません。こうした規制を敷く通貨のヘッジは、不可能ではないものの、追加的なコストとリスクを要する場合もあるため注意が必要です。

 為替ヘッジにかかるコストについて、こう疑問に思う人も多いのではないでしょうか?「現在(21年12月時点)のように、米国金利が低いとき、つまりヘッジコストが安い時にヘッジを付けていればいいのでは?」と。しかし、ヘッジ方法にもよりますが、為替ヘッジを有効にするためには数カ月ごとに為替ヘッジのポジションを更新しなければなりません。そのため、「今はヘッジコストが安いからお得!」とアドバイスされたとしても、ヘッジの更新が繰り返され、ヘッジコストを安く済ませられる期間が短くなってしまう可能性すらあります。

次ページ ロードローラーの前で小銭を拾う危険性