大学入学共通テストを実施している独立行政法人、大学入試センターの収益が悪化している。2019年度と20年度の決算報告書では収支が赤字に転落。さらに今年4月、有識者会議からは「共通テストを継続的・安定的に実施していくこと自体が危機的状況にある」と指摘された。要因の一つは共通テストの志願者が減少していることだ。人口減少に加えて、国公立大学で総合型選抜(2020年入試までのAO入試)の定員が拡大していることが収支悪化につながっている。連載の最終回は、長年にわたって大学入試を支えている大学入試センターの現状について考えてみたい。

 大学入学共通テストを実施している独立行政法人、大学入試センターは、東京大学駒場キャンパスの近く、東京都目黒区駒場にある。前身は、東京大学の1次試験を作成する組織だった。大学入試センターとして1977年に設置され、かつての共通1次試験から大学入試センター試験、そして21年入試で名前を変えた大学入試共通テストまで、40年以上にわたって大学入学志願者の基礎的な学習の達成度を測定する試験を実施している。

 試験問題をつくっているのは、約430人の問題作成委員。各大学から派遣される大学教員や学識経験者らで構成され、年間約40日から50日程度、大学入試センターで業務にあたっている。さらに、試験問題を点検する約180人の大学教員らと合わせると、毎年約600人が問題作成に関わる。試験の目的は、難問や奇問を排した良質な問題を出題することにあり、実際に出題される問題は「完成度が高く、良問だ」と大学や高校の関係者からも評価されている。

 ところが、財政的には苦境に立たされている。大学入試センターの決算報告書によると、19年度の収支は約1億600万円の支出超過。20年度も1億4000万円の支出超過で、2年連続で赤字に陥っているのだ。

 この赤字には理由がある。19年度は前年度の補正予算で措置されていた大学改革推進に関する補助金7億3100万円を、繰り越して支出したことが要因になった。また20年度は、導入を見送った記述式試験問題の採点と英語学部試験の成績提供システムを受注した業者に対して、5億8900万円の補償を行ったためだ。

 とはいえ、この特殊な事情を除いても、財政基盤は脆弱な状況にある。その大きな理由は志願者の減少だ。大学入試センターは、補助金などを除いた自己収入の9割を検定料収入に頼っている。しかし、センター試験の志願者は03年の60万2887人がピークで、58万2671人だった18年以降は年々減少。21年入試の共通テストでは53万5245人にまで減少した。

 さらに、22年1月に実施される共通テストの確定志願者数は前回よりも4878人減少し、53万367人となったことが12月7日に明らかになった

 志願者が減少している背景の一つには、18歳人口の減少がある。20年に116万7000人だった18歳人口は、今後も毎年2万人から3万人が減少する見通しで、共通テストの志願者も比例して減っていくとみられる。

 もう一つは入試の多様化だ。本連載の前回記事で触れたように、私立大学だけでなく、国公立大学でも総合型選抜を利用する大学が急増していることがある。

 私立大学を専願している受験生が共通テストを積極的に受けることはないため、減少に歯止めはかからないとみられているのだ。

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