地方の受験生だと、東京など、現在の居住地とは別の土地にある大学に進学を決めていた場合、入学金や学費を払うだけでなく、すでに下宿の部屋を契約して引っ越しを済ませている可能性もある。この場合、経済的な理由から、第1志望の大学への進学を諦めることもあるだろう。21年入試では、この両方のケースが起きているとみられるのだ。

 混乱するのは大学も同じだ。いわゆる上位の大学が大量の追加合格を出せば、進学を予定していた学生が多数抜けることもある。定員不足の事態となれば、追加合格を出さざるを得なくなる。しかし、文部科学省は全国の大学に対して、合格発表は3月31日までを順守するよう大学入学者選抜実施要項で求めていることから、3月末ぎりぎりに入学辞退者が出た場合、追加合格でも対応できないのだ。

繰り上げ合格が急増した裏にある「複合要因」

 なぜこんなことになっているのか。

 原因の1つは、文部科学省が16年から段階的に実施してきた私立大学の定員厳格化だ。大都市圏の比較的規模が大きな大学に学生が集中する状況を是正するための政策とされる。実施前の14年には私立大学の入学定員を約4万5000人超過し、その超過分の8割が3大都市圏の大学に集中していた。地方の大学が定員割れするのを防ぐため、大都市圏の大学が基準よりも超過して入学させた場合には「私立大学等経常費補助金」を交付しないことを決めたのだ。

 入学定員の超過が許される基準は、15年までは定員8000人以上の大規模の大学で1.2倍未満。それ以外の大学では1.3倍未満とされていた。それが、大規模の大学では16年に1.17倍、17年に1.14倍、18年に1.1倍まで引き下げられた。同様に、中規模の大学(定員4000~8000人未満)では1.27倍、1.24倍、1.2倍となった。定員4000人未満の小規模の大学では1.3倍となっている。

 当初、19年から全ての大学に対して定員1.0倍まで基準を引き下げることが検討されていたが、最初の3年間で一定の成果があったとして、18年の基準のままで現在に至る。一方で、定員充足率が0.95倍から1.0倍の場合、補助金が4%増額される制度が導入された。

 定員厳格化が始まるまでは、前述の早慶上智およびMARCHの繰り上げ合格はそれほど多くなかったという。大学通信の安田賢治常務は、この間の推移を次のように分析する。

 「大都市圏の私立大学では、17年から定員厳格化によって合格者を減らし始めていました。それが大規模大学で入学定員の1.1倍までに引き下げされた18年から、繰り上げ合格の多さが目立ってきました。合格者数を絞ったものの、結果的に繰り上げや追加合格を出さざるを得ない状況になったと考えられます」

次ページ 全国の私立大学が「定員割れ」でも都内は100%超