なぜ、これほど高いモチベーションでイキイキと働いているのか。新幹線の清掃を担当しているのは、JR東日本テクノハートTESSEI(以下、テッセイ)という会社だ。1日約180本の列車、約16万5000席の清掃を行っている。テッセイに改革のメスを入れたのは、矢部輝夫氏だ。2005年、JR東日本から取締役経営企画部長として赴任した際の第一印象を週刊誌「AERA」(2015年5月18日号)で次のように語っている。

 「テッセイは、グループ会社の中であまり評判が良くありませんでしたが、来てみると、予想に反してスタッフの能力は高く、仕事にも真面目に取り組んでいた。ただ、トップダウンで一方的に管理されるばかりで、鬱屈して活力を失っていたのです」

 矢部氏はテッセイの仕事を再定義し、社員、パートのスタッフ全員にこう伝えたという。「我々の仕事は清掃業でなくサービス業です。あなたがたは掃除のおじちゃん、おばちゃんではなく、新幹線劇場のキャスト。お客様に温かな思い出をお持ち帰りいただくのが仕事です」

 そして、スタッフのユニフォームを刷新したところ、乗客から注目され、声をかけられるようになったという。最近では、夏場はハワイアンテイストということで、アロハシャツを着ている。帽子にはハイビスカスまで付いていてオシャレで涼しげだ。

新幹線の清掃作業をするスタッフのユニフォームは、スタイリッシュに刷新され大きな効果を上げた。(写真提: MAHATHIR MOHD YASIN/Shutterstock.com)
新幹線の清掃作業をするスタッフのユニフォームは、スタイリッシュに刷新され大きな効果を上げた。(写真提: MAHATHIR MOHD YASIN/Shutterstock.com)

 さらにスタッフの地道な「良い行い」をリポートさせる「エンジェル・リポート」を導入。スタッフ同士が認め合い、ほめ合う文化を作り上げた。現場から上がる提案や気づきに丁寧に向き合い、ボトムアップによる課題解決にも尽力したという。

すべての職場は幸福にできる

 さて、記事の冒頭に紹介した、ハッピーに働いている人に見られる3条件だが、まずは役割分担をしてチームワークよく、テキパキと働いていることから、「(1)良い人間関係が築かれている」ことが見て取れる。テレビで取り上げられていた中でも、ホーム下の休憩室で皆一緒に食事をし、リーダーは皆をよく観察し、様子が気になる人がいれば話しかけるようにしていると紹介されていた。

 次に、「(2)誇りをもって仕事をしている」という点が、矢部氏によって大きく改善されたところだろう。サービススタッフとして新幹線の定時運行を確保する使命を担っており、間違いなく誇りをもって仕事をしている。ユニフォームを改善し、あえて目立つようにしたことや、清掃終了後に整列をして一礼をしていくことなど、「乗客から見られている」という意識は、仕事への誇りにつながっているに違いない。

 最後に「(3)成長の機会」は、清掃スキルのさらなるレベルアップを図っていることもあるだろうし、矢部氏が導入した改善提案の仕組みも自律的な成長・改善の意欲を高めていることは間違いない。

 このように、一般的に3Kと言われる仕事においても3条件を満たすことはできる。ならば、どのような職場においても、必ず満たすことができる条件であり、それらが満たされずに、アンハッピーな人が出てくるということは、経営者やリーダーの怠慢とも言えるのではないだろうか。

職場の「感情」論』(日本経済新聞出版)

心が凍る職場、温かな職場を、何が分けるのか。職場の「感情」問題を多くの事例から解説します

 リモートワークの広がりで、さらに顕在化したのが職場の感情問題です。顔をつきあわせることのない日々は、働く人がそれぞれ何を感じ、どういう感情を抱いているかがお互いに認識しにくくなっています。そして、職場を構成する人々がどのような感情をもっているかが、生産性はもとより、仕事の質に大きく影響するのです。

 では、何が働く人の感情を大きく動かすのか。人間関係、リーダーの資質、企業ブランド、仕事の内容、組織風土などさまざまな要因がありますが、それがどのように作用し、どういう状況をもたらすのか、どうすれば好転させられるのかを人事・組織コンサルタントとして、多くの企業を観察した著者が、さまざまな事例を紹介しながら分かりやすく解説します。

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