歴史は繰り返すのか

 何が29年から始まる世界恐慌を引き起こしたのか、今日までも多くのエコノミストの見解が一致していない。ミルトン・フリードマンやアンナ・シュウォーツ、ジョン・ガルブレイスそしてベン・バーナンキなど著名な経済学者たちは、お互いの見解に矛盾はないものの、明確な一致は示しておらず、バブル崩壊と後に続く経済恐慌の原因については解釈が難しいことを示唆している。株式バブルの崩壊そのものは、世界恐慌の原因ではなく、きっかけの一つにすぎないからだ。

 一方で、彼らの見解が一致している点がある。それは、「投機熱の高まり」が29年のバブルを形成した主因であることだ。当時の新聞は株式市場の熱狂ぶりを連日報道。現在のようにテクノロジーの発展によって「誰もが」投資をできる環境ではなかったが、それでも以前なら興味すら示さなかった層が投資になだれ込んだことは事実だ。

 怪しげな高利回りをうたう投資のあっせん広告が増加し、運転手から看護師まで広い職種の人間が狂乱相場に踊らされたという。極め付きは楽観的な専門家による扇動だ。DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)分析による企業分析を提唱した、イエール大学の経済学者アービング・フィッシャー教授もその一人だ。

 暴落直前の29年10月16日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載された『株価は恒久的な高原状態に到達した』という彼のコメントが、その象徴だ。ごく一部の少数者を除き、ハーバード大学やプリンストン大学、ミシガン大学などに所属する経済学の教授たちも株式相場の「永遠なる上昇」を信じ切っていた。誰も彼もが、株価の著しい上昇を眼前にして、「投機の空気感」に陶酔してしまったのだ。余談だが、フィッシャー教授は暴落前にしこたま株式を買い集めていて、バブル崩壊後に資産を失ったという。そして、彼の経済学者としての名声も失われたことは言うまでもない。

 現代の金融システムは幾度の金融危機を経て、いくぶん健全なものとなった一方で、「脆弱なマクロ経済」と「投機熱の高まり」だけを見ると、足元の状況によく似ていないだろうか。新型コロナウイルスは、ワクチン接種の進展によりピークからは感染者数が世界的に減少したものの、ワクチン効果の低減から3回目の接種が進められるなど、パンデミック(世界的大流行)収束へ予断を許さない。

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