屈折した所有欲によって引き起こされたバブル

 バブルを生み出した背景には、1つは「所有欲」があろう。文明開化によってかき立てられた西洋文化への渇望が屈折した所有欲を生み出した。その矛先は洋服や髪形など色々なものがあったはずだ。しかし、一番に、行き着いた先はウサギであった。

 その理由は、ウサギは品種によって特徴が大きく異なることによるものと考えられる。耳の形や大きさ、毛皮の模様や色など在来種との違いは一目瞭然である。そうした分かりやすい違いに人々が価値を見出したことは必然のように思える。

個人でも品種改良が可能な点も、ウサギの投機的価値を高めた(写真:PIXTA)
個人でも品種改良が可能な点も、ウサギの投機的価値を高めた(写真:PIXTA)

 西洋化の象徴でもあったウサギは、投機家の参入によってその価値が高まった。結果、その商品が持つ「ステータス」も高まり、いっそう富裕層の所有欲を刺激することに。そして、取引価格は再び高騰する。こうした「所有欲と価格高騰のスパイラル」が単なる愛玩動物であったウサギを「資産」にまで昇華させたのだ。

 バブル崩壊の直接的なトリガーとなったのは前述の通り「税金の導入」である。ウサギの所有に対するあまりに高額な税金が導入されたことによって、ウサギの所有に掛かる費用が高騰し過ぎてしまったのだろう。ただ、これは供給側(投機家)にとっての都合ではない。なぜならば、税金による追加コストは「保有コスト」としては非常に小さいからだ。最盛期では、ウサギ1羽あたり150から300円で取引されていた。そして、投機対象が生き物でありかつ人気商品であったことから、在庫回転期間も短かったと予想される。つまり、実際に投機家に対して課される税金は、得られる売り上げや売却利益からすると非常に小さかったはずだ。

 実は、税金による多大な影響を受けたのは需要側(富裕層)だと考えられる。需要側にとってウサギは資産を生まない愛玩動物であることから、保有コストの増大は需要の低減につながる。ウサギブームの結果、飼料などの飼育に必要な物品の価格も高騰していたため、需要者の経済負担は既に過大であった。そこに、税金という更なる追加負担が需要者に重くのしかかり、安値で転売したり捨てたりせざるを得なくなったのだろう。

 そして、実は税金の導入がなかったとしてもいずれバブルは崩壊していたとも考察できる。それはウサギという動物の特性にもよるものだが、元来多産な動物として知られており、一度の妊娠当たりの出産数は5~10羽と多い。そして、妊娠期間も5週間程度と非常に短いため、年間に4~5回も出産することが可能だ。つまり、供給量が非常に肥沃なコモディティになることは投機家にとっても理解していたはずだ。そのため、ブーム開始からほぼ1年が経過していた73年には既に供給過多となっていた可能性が高い。兎税の導入は単なるきっかけであり、バブル崩壊は時間の問題でしかなかった。

 その後のウサギだが、79年にはブームも沈静化したため、税制の廃止を決定。それに伴い再びバブルとなる兆しはあったが、1回目ほどの熱気を帯びることはなかった。現在では、学校の情操教育としての飼育や、ペットの1ジャンルとして存在するだけだ。

 今回紹介したウサギバブルは、西洋文化を渇望する人々の所有欲に乗じて投機熱が高まった事例である。こうしたウサギバブルは世界初の投機バブルといわれている17世紀の「チューリップバブル」などとも類似している。珍しい球根1個で当時の平均年収の数倍~数十倍のお金が動いていたという。バブルで成功する人もいたが、多くの人は負債や破産の憂き目に遭ったと伝えられている。

 また、現代の「高級時計投資」や「NFT(非代替性トークン:デジタルデータの所有権)投資」に通じるところもある。その商品が持つステータスの高さゆえに投機熱を呼び込み、いっそう所有欲をかき立てさせられた人間が高級時計やNFTの価格を押し上げている。まさに、「所有欲と価格高騰のスパイラル」だ。いつの世も、「人と違う」ことに情熱を傾け、金に糸目を付けない人間は存在する。他人との差別化を願う人間の性にはあらがえないということだろうか。前者の高級時計であればまだ、物品としての保証があるが、NFTは所有欲すら満たせない。これは新たな価値の創出と考えるか、はたまたウサギの二の舞いになるのか…。

 ちなみにウサギバブルの沈静後には、ウサギの鍋料理が流行したそうだ。明治時代はウサギにとって本当に災難な時代であった。

 さて、次回の記事では、もう一つの日本バブルを紹介する。公共事業とインフレが引き起こした元禄バブルだ。

この記事はシリーズ「大崎匠の温故知新「バブル史」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。