変異種がステータスシンボルに
チューリップの人気は貴族だけでなく一般庶民にまでも急速に広まったのだったが、供給が安定して数が増えたことでチューリップの球根の価格も低位に収まっていた。変化が訪れたのは1630年代半ば。鮮やかな色彩の「通常のチューリップ」に飽き足らず、変異種への需要が高まったのだ。特に人気の高かったのが初代ローマ帝王の名に由来する「センパー・オーガスタス」と呼ばれる品種だ。植物の病気によって鮮やかな白と赤が交ざり合った品種で、ひときわ美しい模様をしていた。その他にも珍しい模様をした種類のチューリップは、貴族や資産家のステータスとなり、収集家はこぞってこれらの種(チューリップも受粉によって種ができる)を買いあさった。こうした需要の増加を受け、バブル期と呼ばれる時代より前に、変異種の価格は緩やかながらも上昇していった。
本格的に球根の価格高騰の兆候が見え始めたのは1636年11月。球根の価格が10倍近くに跳ね上がったのだ。すぐさま10倍が20倍になった。先に挙げた変異種の球根1個は21エーカー(8万5000平方メートル)の土地と交換されたとの眉唾ものの逸話も残されているほど価値が高騰した。それだけではなく、通常の球根の価格すら高騰を始めた。12月、翌年1月、2月と価格は天井知らずに上昇を続けていった。これこそがチューリップマニアだ。
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