投機の対象は幅広い。株や債券といった資産から、メダカやウサギといった生き物までさまざまだ。今では世間に広く知られている「チューリップマニア」。チューリップの球根が投機の対象となる背景には何があったのだろうか?

 映画『ウォール・ストリート』で俳優のマイケル・ダグラス扮(ふん)する投資家ゴードン・ゲッコーは「歴史上、最も印象的なバブルストーリーだ」と言った。17世紀のオランダで起きたバブルによって、たった一粒のコモディティー(商品)が、首都であるアムステルダムで家を購入できるほどの価値を有するまでになった。

 そのバブルこそ、「チューリップマニア(熱狂)」だ。日本ではチューリップバブルと呼ばれているが、海外では一般的に「熱狂」と呼ばれている。バブルの語源となった「南海泡沫(ほうまつ)事件(1720年)」よりも1世紀前に発生したバブル事件は、1636年11月、チューリップの「球根」の価格高騰によって形成され始めた。

 チューリップは中央アジアを原産とする植物で、ペルシャ語で「ターバン」を意味する言葉をその語源とする。その後、オスマン帝国が栄えた時代に貴族たちによって広く栽培された。オランダで最初にチューリップが花を咲かせたのは1594年のことであった。フランス生まれの植物学者であるカルロス・クルシウスが当時雇われていたライデン大学の庭園に植えたものがそうだ。以来、当時としては珍しいほどに鮮やかな色を持つチューリップは瞬く間にオランダ人に受け入れられ、オランダ文化に深く根ざすことになった。その人気の高さから、しばしばカルロス・クルシウスの庭園から球根が盗まれる事態となったほどだ。

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