なぜ? エンタープライズで?

 こうしたシーンで使われるようになった理由は主に3つ挙げられる。

 第1に、導入が進まなかった弱点がエンタープライズでは比較的問題視されないということだろう。プライバシー問題は、作業地やオフィス内であれば気にする人も少ない。価格問題もビジネスユースでそれ以上の業務改善やコストカットが見込まれるのであれば高くはない。そして、何をするためのデバイスかいまいちイメージできなかったスマートグラスも、ピンポイントで「業務効率化」や「ビジネスの課題解決」というところにフォーカスし、それに準拠したアプリケーションも増えた。結果、あるべき姿を提示できたことが導入につながったということだろう。

 一目ぼれのイケメン彼氏は付き合うイメージが湧かない。でも、お見合い結婚であればゴールインという目的が見えている分、優先順位や妥協点が見いだせるということと同じだ。やっとスマートグラスの、愛するパートナーが見つかったのだ。

 2つ目は、Google Glassをはじめ多くの業界が完全撤退をしなかったことだろう。販売停止をしていたGoogle Glassは新型モデルGlass Enterprise Edition 2を19年に発表。撤退宣言をしなかったことで、業界は再度盛り上がりを見せ、追従するメーカーの参入も増えた。同モデルは21年には、NTTドコモが法人向けに販売開始している。これはドコモショップで気軽に購入できる商品ではなく、製造現場や土木工事、オフィスとあらゆるシーンでのコミュニケーション円滑化を目的としている。

 3つ目は、スマートグラスとしての要件がしっかり見え始めたことだろう。Glass Enterprise Edition 2はカメラ画素数などデバイスのスペックが向上。初代モデルの不満点となっていた連続稼働時間が長時間化し、価格も999ドルと3割強下がった。

 ハードウエア面では技術が日進月歩であり、小型化や省電力化は目下進んでいる。スマートフォンやタブレット向けの省電力CPUの進化が、結果的にスマートグラスの進化にも繋がった形だ。(ちなみに、Glass Enterprise Edition 2は、8時間稼働を可能にした)

 また、ネットワーク環境もスマートグラス黎明(れいめい)期と大きく異なる。現在は高速通信規格の5Gになり高画質の映像配信も一般化。昔であれば、有線LANをハブとすることではじめてストリーミングができていた。

 スマートフォン側の処理能力もラップトップクラスとなっている。黎明期の失敗の一つとして、スマートグラス単体での処理をしようとしたことも挙げられるだろう。だが、現在のスマートグラスは、軽微な処理やコミュニケーションは本体単体で行い、高いスペックが必要な場合は接続するスマートフォンや外部クラウド活用を前提としている。従来型でがっかりしていた層が戻ってきたのには、こうした理由があるのではないだろうか。

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