株価が10倍以上に膨れ上がる可能性のある銘柄を指す「テンバガー」。個人投資家を中心に広く親しまれている用語ではあるが、株価が100倍以上に急騰する可能性を持つ銘柄があると言われたらどうだろうか。それが今回紹介する「ミーム株」だ。実際には、100倍になる株を指す用語ではないものの、複数のミーム株で短期間のうちに数十から100倍近くにまで株価が急騰した事例が存在する。今やウォール街の住人も注目する用語となったミーム株について、その歴史や特徴といった基本的な情報について前後編で紹介したい。

(写真:PIXTA)
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ミーム株とは

 巷ではテンバガー(Tenbagger)と呼ばれる株を探し当てることが、個人投資家の間で流行している。テンバガーとは、かつて米資産運用大手フィデリティで活躍したファンドマネージャーであるピーター・リンチ氏によって生み出された言葉で、投資後株価が10倍以上に膨れ上がる銘柄を指す。言葉自体は1990年代から存在し、資産運用かいわいでは広く知られた言葉ではあるが、日本において今注目を集めるキーワードになっている。

 書店を見ればテンバガー発掘の指南書が棚を占拠している。こうした書籍の売り上げは良く、類書が続々と刊行されている。書籍の売れ行きを見るに、多くの個人投資家が将来大化けする銘柄を探し求めていることが分かる。そんなテンバガー信望者に対し、「10倍とは言わず100倍を目指せる株がある」とささやいたらどうなるだろうか。「バカなことあるか」と一蹴されそうではあるが、そんな夢のような株は実在するのだ。それが、今回紹介する「ミーム株」だ。

 ミーム株(Meme Stock)とは、オンラインコミュニティーにてもてはやされる「はやりの株」のことを指す。「はやり」を意味するミームとは、ネットスラングとしてかねて使用されており、コラージュを施した画像を「ミーム画像」と呼ぶなどされていた。ミーム株は、こうしたネットスラングの文化が投資の世界へと流入したことによる産物である。

 短期間のうちに100倍近くまで株価が暴騰することもあるミーム株は、今や世界中の投資家の注目を集める。あらゆるSNS(交流サイト)では、ミーム株への投資が語られ、テキストマイニングによってオンライン上におけるミーム株のモメンタムを測るウェブサイトも数多く存在するほどだ。

 ではミーム株を投資家たちはどうやって探すのか。それは、米国のBBS(インターネット上の掲示板)である「レディット(Reddit)」と呼ばれるプラットフォームだ。レディットは米国を拠点とする同名の企業が2005年に立ち上げたBBSである。投稿するためには、アカウント登録が必要となるため、日本の「2ちゃんねる」などと比べると匿名性は高くない。また日本での知名度は依然として高くないものの、現在の日次アクティブユーザー数は約5200万人を誇り、世界でも随一のBBSである。

 著名人も度々投稿をしており、これまでには俳優のアーノルド・シュワルツェネッガー氏やシルベスター・スタローン氏、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やバラク・オバマ元米国大統領が直接書き込みをしている。

 レディット内では、最新ニュースから日曜大工、プログラミング、生活アイデア、そして投資まで幅広いトピックに関する「サブレディット」と呼ばれる小コミュニティーをユーザーが立ち上げることができる。立ち上げたサブレディットにて、コミュニティーの参加者が投稿を通じて情報の共有や議論を活発に行っている。

 そんな、10万個以上存在するサブレディットの中でミーム株について盛んに議論されているのが「r/wallstreetbets」と「r/Superstonk」だ。2つの異なるサブレディットに共通するトピックはリスク性の高い株式投資。コミュニティーに参加する投資家が日夜、投資アイデアや自らの運用成績を共有し合っている。これら2つのサブレディットこそがミーム株誕生の場なのだ。

 2021年6月時点で、r/wallstreetbetsは1000万人の登録者(レディット上で更新通知を受け取る人)を有する。一方、r/Superstonkは比較的若いコミュニティーかつ投稿が特定のミーム株に限られているため、登録者は40万人と若干少ないものの、ここ数カ月で爆発的に登録者が伸びている。本稿では、「ミーム株」という言葉の誕生と密接に関わっているr/wallstreetbetsについて主に紹介する。

 r/wallstreetbetsの歴史は2012年に始まる。とあるテクノロジーコンサルタントが、「自由闊達にリスク性の高い投資アイデアを交換できる場」として立ち上げたサブレディットは、当初数年間はあまり注目を浴びる存在ではなかった。頭角を表したのは誕生から8年後の2020年。コロナ禍によって世界の金融市場が混乱に陥った頃であった。

 ウイルス収束のめどが立たず、リセッション(景気後退)入りが懸念される一方で、各国主要中銀は相次いで緊急的な金融緩和政策を打ち出した。そして、各国政府は巨額の財政支援策を導入するなどし、どうにかしてパンデミック(世界的流行)による経済損失を抑えようと尽力していた頃であった。そうした公衆衛生上の危機に対し、歴史上類を見ない規模での金融・財政政策の導入を行うという異常事態。米国株式市場は激しく反応した。

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