NFTのアート的な価値は

 さて、NFTアートの実質的な価値については、たびたび議論を生んでいる。新たな美術の価値を形成したという人もいれば、無価値なマネーゲームだと批判する人もいる。類似のケースとして、現代アートにまつわる昔話が参考になるかもしれない。

 芸術家のマルセル・デュシャン。彼は、工場や工房で大量生産されている既製品をアート作品「レディメイド」を発表。中でも、男性用小便器に対して自身のサインを書いた作品に対して「泉」というタイトルをつけた作品は、現代アートの裾野を大きく広げたといわれている。

 この作品自体の価値は何かと問われると、物的な価値は古い量産された便器だ。しいて言えば、マルセル・デュシャンのサインが価値を生む程度だ。だが、彼がアート作品として便器を選んだという感性や、本作品がセンセーショナルに取り上げられた歴史などを考慮すれば、「泉」は非常に価値あるアートだ。残念ながら、オリジナルは紛失しており、もし発見されれば美術史に残る価格で取引されることは間違いないだろう。

 NFTアートも泉と同様に、価値判断に対する議論が生み出されやすい。現在は話題先行で価格に対する裏付けはなく、上下変動は激しい。データの価値で言えば、オリジナルを複製することは容易にできる。それでも、NFTの所有権には数億円の費用が発生することもある。

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