メタバース強化と基本給アップは不可分の関係

 実はバンダイナムコHDのメタバースに力を入れる戦略と、本記事の冒頭で触れた初任給を含むグループ横断的な基本給アップは不可分の関係にある。メタバース戦略を推進するには優秀なデジタル人材が欠かせないからだ。こうした人材についてはGAFA(グーグル・アマゾン・旧フェイスブック〈現メタ〉・アップル)に象徴されるさまざまなIT企業との奪い合いが激化している。その際に、初任給が従来のような22万円台だと見劣りしてしまう。

 もちろんバンダイナムコHDは、ガンダムやドラゴンボールなどの作品を愛する若者には一定の人気がある就職先だ。だが、テクノロジーに強い新卒人材が2社や3社の内定をもらった際、給与面であまりに不利だと、逃げられてしまう可能性がどうしても高まる。だからこそデジタル時代を切り開く人材も引き付けられるような給料面での改革が欠かせないのだろう。

 日経ビジネス電子版で「 新卒採用戦線異状アリ 」を連載する「採用研究所」の所長、谷出正直氏は、給与を高く設定する背景には「中途採用市場で優秀な人材の引き抜きにコストがかかる点とイメージづくりを含めたPRの強化がある」と分析する。

 中途採用市場で優秀な人材を獲得するのは簡単でない。高めの給料や魅力的な仕事内容、柔軟な働き方などを提示する企業間の競争は激化する一方だ。だからこそバンダイナムコHDは業績が好調で財務に余裕があるタイミングで、採用に有利になる条件の改善に踏み切ったのだろう。

 「給与アップとその背景にある変革のメッセージが伝われば、求職者から見たバンダイのイメージは大きく変わる。新卒時に選ばれなくても、転職時の選択肢になりうる」(谷出氏)

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